お知らせ
2025年03月10日
酪農業従事者の家庭内で発生した室内飼育猫の高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルス感染例(2024年5月,アメリカ-ミシガン州)
Highly Pathogenic Avian Influenza A (H5N1) Virus Infection of Indoor Domestic Cats Within Dairy Industry Worker Households — Michigan, May 2024
Naraharisetti R, Weinberg M, Stoddard B, et al.
Morbidity and Mortality Weekly Report. 74,61-65. 2025.
doi: 10.15585/mmwr.mm7405a2
本ホームページ(2024年5月17日)において、米国における酪農場従業員への高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAI)A(H5N1)の感染事例に関する報告を紹介しました(https://jlic-net.com/archives/1059.html)。また、これまで飼い猫の感染事例も多数報告されています(https://www.aphis.usda.gov/livestock-poultry-disease/avian/avian-influenza/hpai-detections/mammals)。今般、米国の酪農従事者の家庭で完全に室内飼育されている猫で、HPAI A(H5N1)ウイルス(クレード2.3.4.4b、遺伝子型B3.13)の感染が確認されたと報告されましたので紹介します。2024年5月、2名の酪農従事者の家庭で飼育されていた完全室内飼育の猫が呼吸器および神経症状を呈し死亡し、HPAI A (H5N1)ウイルスが検出されたことを受け、猫の飼い主および同居人、同居している猫での調査が開始されました(図)。
家庭1: 症状があり死亡した猫1Aの飼い主は酪農場で働いていました。飼い主は検査を拒否し、同居する3名の検査結果は陰性でした。同居している他の猫2匹のうち1匹(猫1B)は症状を示しましたが検査結果は陰性でした。また、もう1匹の猫(猫1C)は症状もなく検査も陰性でした。
家庭2: 症状があり死亡した猫2Aの飼い主は単身で暮らし、未殺菌の生乳を運搬する仕事に従事していました。この労働者は、生乳が顔や目にかかることがあったと報告し、インフルエンザの症状がありましたが、検査を拒否しました。また、同居している猫(猫2B)は検査陰性でした。
家庭1及び家庭2の酪農従事者は、HPAI A(H5N1)ウイルス(クレード2.3.4.4b、遺伝子型B3.13)陽性の乳牛が確認されている地域で雇用されていました。HPAI A(H5N1)ウイルス(クレード2.3.4.4b)は、2022年以降、アメリカの野鳥や野生動物で検出され、2024年には乳牛でも確認されました。アメリカにおける乳牛のHPAI A(H5N1)流行では、農場で頻繁に見られる猫が、感染した乳牛の未殺菌乳、野鳥、または生の家禽製品を摂取することでHPAI A(H5N1)ウイルスに感染し、神経症状を含む重篤な疾患や死亡したことも報告されています。今回の死亡した猫の感染源は不明ですが、猫の飼い主は酪農場で働いており、陽性牛または汚染された製品や環境に暴露していた可能性があります。
HPAI A(H5N1)が家畜に確認されている地域では、呼吸器や神経症状を示す猫を診察する際に、獣医師が飼い主の職業情報を把握することで診断の助けとなる可能性があります。猫の飼い主にHPAI A(H5N1)感染家畜への曝露が確認され、飼育猫がHPAI A(H5N1)ウイルス感染の疑いがある場合には、獣医師は地域の公衆衛生・動物衛生当局と連携し、One Healthの枠組みで共同調査や検査を実施することが、ヒトと動物の健康を守る上で重要だと考えられます。なお、日本ではHPAI Aウイルスが家畜に感染した事例は報告されておらず、過度に心配する必要はないと考えます。しかし、通常の衛生管理体制を高めるために、飼養衛生管理基準を遵守し、衛生管理区域内でのペットの飼育を行わないことが重要です。
臼井 優(酪農学園大学)
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