お知らせ
2025年02月26日
薬剤耐性の視点からプロバイオティクスサプリメントの健康リスクを評価する
Evaluating the health risk of probiotic supplements from the perspective of antimicrobial resistance
Tian Q, Ye H, Zhou X, Wang J, et al.,
Microbiol Spectr. 10, e0001924. 2024.
doi: 10.1128/spectrum.00019-24.
腸内環境の改善、感染症予防、免疫力の強化、アレルギーの軽減などの目的で使用されるプロバイティクス*は、食品や医療など様々な分野で応用が期待されており、ますます人気が高まっています。一方で、プロバイオティクスが保有する薬剤耐性遺伝子(ARGs)は、近年、潜在的な健康リスクとして考えられるようになりました。プロバイオティクスは健康補助食品としても販売及び使用されますが、使用されるプロバイオティクスに含まれるARGsがヒト腸内常在菌に伝播し、ARGsのリザーバー**になるとともに、日和見感染病原体がARGsを獲得するリスクを高めることが示唆されています(図1)。先行研究では、プロバイオティクスとして利用される細菌が複数の抗菌薬に対して耐性を示すことを報告しましたが、今回、それらの耐性表現型の原因となっている可能性のあるARGsの検出を試みました。
6種類の市販のプロバイオティクスを調べた結果、テトラサイクリン、マクロライド、アミノグリコシド、グリコペプチド系抗菌薬の耐性に関連するARGsが高頻度に検出されました(表1)。製品Bに含まれるプロバイオティクス株を、ストレプトマイシンに最大512 mg/Lまで暴露され適応進化させました。この株をBstrRとしました。BstrRは、適応進化させなかった株(BWT)よりもエリスロマイシン、テトラサイクリン、ドキシサイクリンに対してより抵抗性を示しました (図2)。テトラサイクリンやドキシサイクリンは、ストレプトマイシンと同様に30Sリボソームサブユニットを標的としており、アミノアシルtRNAが細菌リボソームに結合するのを防ぐため、BstrRがこれらの抗菌薬に対して効率的に適応したことは、BstrRに蓄積された変異によって交差耐性を示した可能性があります。50Sリボソームサブユニットおよび細胞壁合成を標的とするエリスロマイシンとアモキシシリンに対しても適応を示しました。このことは、BstrRに蓄積された未知のARG等が影響した可能性があります。
適応進化させたプロバイオティクス株BstrRをドナー細菌とし、Enterococcus faecalis、Escherichia coli、またはStaphylococcus aureusをレシピエント細菌として、Caco-2細胞またはHCT-116細胞上で共培養した場合、ストレプトマイシン耐性がBstrRからレシピエント細菌に伝達されました(図3, 4)。培養細胞と共培養した場合、高い頻度でトランスコンジュガント***が生成されました(表2)。Caco-2細胞上でBstrRと共培養した後、ストレプトマイシン耐性を付与するARG(aadA)およびエリスロマイシン耐性を付与するARG (erm(B)−1)が、それぞれE. coliおよびS. aureusのトランスコンジュガントで検出されました。また、HCT-116細胞上での同様の共培養後、E. faecalisのトランスコンジュガントでaadAおよびerm(B)−1の両方が検出されました(表3)。このことは、プロバイオティクス株から、複数のARGがレシピエント株となる細菌へ伝達することを示しました。
今回のデータは、動物モデルおよびヒトを対象とした将来的な研究の基盤となるものであり、プロバイオティクスを摂取する際の長期的な健康リスクの解明に寄与することが期待されます。プロバイオティクスに含まれるARGsについては、管理されていく必要があることが示されました。なお、JLICのスポンサーであるミヤリサン製薬株式会社が販売するプロバイオティクスに含まれるClostoridium butyricum FERM BP-2789は、全ゲノム解析の結果、有害化学物質を産生せず、ARGsを保有していないことが確認されています****。
*プロバイオティクス:健康に有益な効果をもたらす生きた微生物のことで、腸内環境を整え、免疫機能の向上や消化機能の改善に寄与するとされています。一般的には乳酸菌やビフィズス菌が代表例で、ヨーグルトやサプリメントなどの食品として摂取されます。
**ARGsのリザーバー, ARGsを保持し、他の細菌へ水平伝達する可能性のある細菌や環境中の遺伝子プールのこと。これには腸内細菌や土壌、水などが含まれ、ARGsの拡散を防ぐための管理が重要です。
***トランスコンジュガント, 接合伝達によって他の細菌からプラスミドなどの耐性遺伝子を受け取り、新たな形質を獲得した細菌のことを指します。例えば、ARGを含むプラスミドを受け取った細菌は、抗菌薬に対して耐性を示すようになります。
**** EFSA Journal, 8 March 2021, https://doi.org/10.2903/j.efsa.2021.6450
臼井 優(酪農学園大学)
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