お知らせ

2025年02月03日

低中所得国における基質特異性拡張型 β-ラクタマーゼおよびカルバペネマーゼ産生菌の病院内環境表面での定着

 

Colonisation of hospital surfaces from low- and middle-income countries by extended spectrum β-lactamase- and carbapenemase-producing bacteria

 

Nieto-Rosado M, Portal E A R, Thomson K M., et al.,
Nat Commun. 15, 2758. 2024.
doi: 10.1038/s41467-024-46684-z.

 

病院の環境表面において病原性細菌が定着・維持されることがあり、それが原因となり院内感染を引き起こす可能性があります。特に低中所得国(LMICs)では、院内感染を原因として死亡する事例も多く問題となっています。LMICsにおける新生児での薬剤耐性の負担を解明する研究としてBARNARDS Researchという研究が実施されています。その研究の中で、新生児病棟の病院環境表面や患者を治療する医療機器から細菌を分離し性状解析を実施することで、薬剤耐性遺伝子を保有するグラム陰性菌(GNB)の病院環境での定着状況を評価しました。また、BARNARDS Researchで分離された敗血症由来細菌との比較解析を実施しました。

今回の研究では、分離された細菌について、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(blaCTX-M-15)およびカルバペネマーゼ(blaNDMblaOXA-48blaKPC)に着目して、これらの耐性遺伝子を保有しているかどうかについてのPCRによるスクリーニング、薬剤耐性遺伝子を保有するGNBの質量分析法(MALDI-TOF MS)による菌種同定、さらに分離株の全ゲノム配列分析による詳細な解析(BARNARDS Researchによる敗血症由来細菌株との比較を含む)を実施しました。

研究期間を通して、病院環境において一貫して優勢な遺伝的に同一な菌株(クローン)が存在することおよび新生児敗血症を引き起こす株との関連性が確認されました(図)。カルバペネマーゼ産生菌はパキスタン、バングラデシュ、エチオピアで高頻度に分離され、特にシンクの排水口付近の環境表面から検出されました。優勢な細菌種として、Klebsiella pneumoniaeEnterobacter hormaecheiAcinetobacter baumanniiSerratia marcescensLeclercia adecarboxylataが分離され、特にST15型K. pneumoniaeはパキスタンの同じ病棟内で複数回確認され、環境内でクローンが維持されていることが示唆されました(図)。また、同じ時期にパキスタンで新生児敗血症を引き起こした分離株と同一であることも明らかとなりました。

今回のデータは、複数の時間軸で優勢なクローンが持続することを示しており、特にLMICsの病院における薬剤耐性菌の院内感染の予防および管理ガイドラインの必要性を示しています。動物分野においても、薬剤耐性菌が農場環境などに定着・維持されることによって、農場での薬剤耐性菌の制御が困難となるという報告はいくつかあります。今回の研究はLMICsに関する病院での研究成果ではあるものの、動物周辺環境における薬剤耐性菌の制御を考える上で参考となり、動物周辺環境における薬剤耐性菌管理ガイドラインの必要性も考えられました。

臼井 優(酪農学園大学)