お知らせ

2025年01月20日

2009年から2020年のオランダにおける家畜での抗菌薬使用量とヒト尿路感染症由来大腸菌分離株の薬剤耐性との関連性

 

Association between antimicrobial usage in livestock and antimicrobial resistance in Escherichia coli isolates from human urinary tract infections in the Netherlands, 2009-2020.

 

Mijis A P, Chaname-Pinedo L E, Deng H, Veldman K T, et al.,
J Antimicrob Chemother. 79, 2622-2632. 2024.
doi: 10.1093/jac/dkae268.

 

過去10年間、オランダでは家畜に対する抗菌薬の使用量(AMU)と家畜から分離される指標細菌での薬剤耐性率が顕著に減少しました。しかし、この減少がヒトの感染症における薬剤耐性レベルにどの程度影響を与えたのかは明らかではありません。そこで、家畜におけるAMUとヒトの尿路感染症(UTI)から分離されたEscherichia coliの薬剤感受性との関連を明らかにすることを目的として試験を実施しました。            

2009年から2020年までのオランダのヒトおよび家畜に関する全国的なモニタリングデータにおける、指標菌としてのE. coliの薬剤感受性およびAMUデータを使用しました。4つの主要な家畜分野でのAMUとヒトのUTI由来E. coliの薬剤感受性との関連を、10種類の抗菌薬について、ロジスティック回帰分析*を用いて評価しました。また、家畜のAMUと家畜由来指標細菌の薬剤感受性、家畜由来指標細菌の薬剤感受性とヒト由来指標細菌の薬剤感受性、そして家畜のAMUとヒト由来指標細菌の薬剤感受性の関連性についても評価しました。

オランダでは、2009年から2020年にかけてヒトでの抗菌薬全体の使用量は減少傾向を示し、ヒト由来UTI由来E. coliの薬剤耐性割合も多くの抗菌薬に対して減少傾向を示しました(図1)。家畜における抗菌薬の使用量は、全ての家畜種においてヒトでの抗菌薬使用量以上に減少傾向を示し、それに伴い家畜由来E. coliの薬剤耐性割合も減少傾向を示しました(図2)。家畜におけるAMUとヒトのUTI由来E. coliにおける薬剤感受性について、16の組み合わせにおいて統計的有意な関連が認められました(表)。有意な関連のうち、11のケースは正の関連(OR 1.01–1.24)であり、5のケースは負の関連(OR 0.96–0.99)でした。ヒトのAMUとUTI由来E. coliの薬剤感受性との関連は、すべてにおいて正の関連が見られ、統計学的に有意でした。また、家畜由来指標細菌とヒト由来指標細菌との間にも弱いながらも有意な正の相関が観察されました。

家畜におけるAMUとヒトのUTI由来E. coliの薬剤感受性との間にいくつかの有意な関連が観察されたものの、AMUと薬剤感受性の関連は、ヒトと家畜のそれぞれの分野内での関連の方が強く認められました。これは、家畜からヒトUTIを引き起こす薬剤耐性E. coliについて、動物からヒトへの拡散は限定的であることを示唆しています。

日本の薬剤耐性モニタリングデータでも、動物由来細菌とヒト由来細菌との関連が限定的であることが示唆されています。ただし、薬剤耐性菌を含む人獣共通感染症の原因となる細菌が分野を超えて伝播することはリスクが高いため、動物でのAMUをコントロールし薬剤耐性菌の選択を抑えた上で、分野を超えた伝播を防ぐ取り組みが重要となります。

 

*ロジスティック回帰分析:何かが「起こる・起こらない」といった結果を予測する方法。いろいろな要因がその結果にどう影響しているかを数学的に計算し、「起こる確率」を算出します。

 

臼井 優(酪農学園大学)