お知らせ

2024年05月17日

酪農場従業員への高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)の感染

Highly Pathogenic Avian Influenza A(H5N1) Virus Infection in a Dairy Farm Worker

 

Uyeki, T.M., Milton, S., Abdul Hamid, C., Reinoso Webb, C., Presley, S.M., Shetty, V., Rollo, S.N., Martinez, D.L., Rai, S., Gonzales, E.R., Kniss, K.L., Jang, Y., Frederick, J.C., De La Cruz, J.A., Liddell, J., Di, H., Kirby, M.K., Barnes, J.R., Davis, C.T.
N Engl J Med. In press. 2024.
doi: 10.1056/NEJMc2405371.

 

アメリカの複数の州において乳牛や未殺菌牛乳を原因とした高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)ウィルスの伝播に関する報告がある中、The New England Journal of Medicineにおいて、酪農場従業員への報告事例が掲載されました。この記事については、日本の酪農業界にとっても緊急性が高いと考え、ここに日本語要約を準備しました。

HPAI A (H5N1)はヒトでの散発的な感染が報告されています。この感染症は、過去20年以上にわたり、少なくとも23カ国で報告されています。ヒトでの臨床的重症度は多様であるが、累積致死率は50%を超える。HPAI A(H5N1)Clade 2.3.4.4bウイルスは、2020年から2021年にかけて世界中の野生鳥類の間で拡散し、家禽やその他の動物にも感染、発症しました。最近、複数のアメリカの州で乳牛や未殺菌の牛乳サンプルからHPAI A(H5N1) クレード2.3.4.4bウイルスが検出されました。今回、テキサス州の酪農場従業員でのHPAI A(H5N1)ウイルス感染の症例を報告します。

2024年3月下旬、成人の酪農場従業員が右目の発赤と不快感を感じました。当日の診察では、右目に結膜下出血と薄い漿液性の排液が認められました。バイタルサインは正常でした。発熱感、呼吸器症状、視力の変化、その他の症状の既往はありませんでした。従業員は病気の野生鳥類、家禽、その他の動物との接触はないと報告しましたが、健康に見える乳牛や、HPAI A(H5N1)ウイルス感染が確認されたテキサス州北部の他の酪農場で臨床症状を示す乳牛(例:乳量の減少、食欲減退、倦怠感、発熱、脱水等)と直接密接に接触したと報告しました。従業員は、乳牛と作業する際に手袋を着用していましたが、呼吸器や目の保護具は使用していませんでした。

インフルエンザの検査のため、右目の結膜および鼻咽頭のスワブサンプルが採取されました。リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)検査の結果、両サンプルからインフルエンザAおよびA(H5)ウイルスの暫定陽性結果が得られました。結果に基づき、在宅隔離が推奨され、従業員に治療として経口オセルタミビル(75 mg、1日2回、5日間)が処方され、家庭内接触者には同じ用量で曝露後予防を目的として提供されました。翌日、従業員は両目の不快感以外の症状は報告せず、再評価で両目の結膜下出血が確認されましたが、視力障害はありませんでした。その後、従業員は呼吸器症状はないまま、結膜炎が解消したと報告し、家庭内接触者も健康状態を維持しました。

アメリカ疾病管理予防センター(CDC)は、症状発症日に採取された結膜および鼻咽頭スワブからHPAI A (H5N1)ウイルスの感染を確認しました。今回、結膜スワブサンプルから検出されたHPAI A ウィルスは、解析の結果、Clade 2.3.4.4bに属することが確認された。また、結膜および鼻咽頭スワブから、ウイルス分離に成功し、同一のウイルスであることが確認された。すべての遺伝子セグメントは、2024年3月にテキサス州の乳牛や周辺の野生鳥類で検出されたウイルスと密接に関連していました。
乳牛と従業員からの検出されたウイルス配列は、主に鳥類由来ウィルスの遺伝的特徴を維持し、ヘマグルチニン遺伝子の変化やヒトへの感染リスクに影響を与える変化は認められませんでした。従業員のサンプルから検出されたウイルスは、哺乳類宿主へのウイルス適応に関連し、以前にヒトやその他の哺乳類で検出されたHPAI A(H5N1)ウイルスおよび他の鳥インフルエンザAウイルス亜型(A(H7N9)およびA(H9N2)を含む)で検出された変化(PB2 E627K)を有していました。

以上のことから、アメリカの乳牛や未殺菌の牛乳で検出されているHPAI A(H5N1) クレード2.3.4.4bウイルスが、HPAIウィルスに感染した乳牛に密接に接触することによりヒトへの感染を起こし、拡散していることが示唆されました。獣医師や生産者に対して、牛からヒトへのHPAIウィルスの直接的な伝播も起こり得るという注意喚起が必要に思われる。

臼井 優(酪農学園大学)