お知らせ

2024年05月07日

アメリカにおける高病原性鳥インフルエンザ(H5N1) Clade2.3.4.4bの乳牛および猫への感染

 

Highly Pathogenic Avian Influenza A(H5N1) Clade 2.3.4.4b Virus Infection in Domestic Dairy Cattle and Cats, United States

Burrough, E., Magstadt, D., Petersen, B., Timmermans, S., Gauger, P., Zhang, J., Siepker, C., Mainenti, M., Li, G., Thompson, A., Gorden, P., Plummer, P., Main, R.
Emerg Infect Dis. 30. Early Release. 2024.
Doi: 10.3201/eid3007.240508.

 

高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)ウイルスは、世界中の野生鳥類や鶏に重篤な症状を起こし、中でもHPAI H5N1ウイルスは、哺乳類への感染が頻繁に報告されていることから、大きな脅威となっている。2021年後半に、H5N1(Clade 2.3.4.4b)ユーラシア株がアメリカで検出され、2024年にかけてアウトブレイクが続いている。現在のところ、アメリカの9つの州で牛への感染が認められている(図1)。この報告では、アメリカのテキサス州における乳牛および猫での感染事例について解析を行なっている。

HPAIに感染した乳牛は、非特異的な症状を示し、餌の摂取量と反芻の減少、そして急激な乳量の減少が認められた。多くの感染牛の乳は初乳に似た濃厚でクリーミーな黄色の外観を呈した。感染が起きた農場では、最初の感染から4~6日で発生率がピークに達し、その後10~14日以内に徐々に減少し、その後、ほとんどの乳牛は徐々に回復した。また、感染した乳牛の乳を飲んだ猫が感染し、死亡した(農場における感染した猫の死亡率は約50%だった)。猫の臨床症状として、抑うつ状態、体の硬直、運動失調、盲目、円を描くような動き、そして多量の眼鼻漏出液があった。

HPAIウイルスの関連性を明らかにするため、乳牛2サンプルと猫の組織2サンプルから検出されたHPAIウイルスについて遺伝子解析(ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の配列比較)が行われた。HA遺伝子の分析では、2サンプルの乳から検出されたHPAIウイルスは、99.88%同一だった。猫の組織サンプルから検出されたHPAIウイルスのHA配列は、100%一致した。乳と猫の組織からのHPAIウイルスのHA配列は、99.94%同一であり、独特のサブクラスターを形成しており、Clade 2.3.4.4bに属する他のH5N1ウイルスと同一のクラスターを形成した(図2)。NA遺伝子の分析では、2サンプルの乳から検出されたHPAIウイルスは99.93%同一だった。さらに、乳と猫の組織から検出されたHPAIウイルスのNA配列は100%一致した。これら4つのNA配列はHPAIウイルスのN1サブタイプ内にグループ化された(図3)。

テキサス州の農場の乳および猫の組織サンプルから検出されたHPAIウイルスのHAおよびNAの配列がほぼ一致したことから、乳牛と猫に感染したHPAIウイルスは共通の起源を持っていることが示唆された。市販乳の殺菌はヒトへの伝播リスクを軽減するが、2019年の米国の消費者調査では、成人の4.4%が年に1回以上生乳を消費していることから、生乳にはHPAI H5N1ウイルスが存在することがあることについて、周知されることが必要である。

HPAIウイルスに感染した野生鳥類の糞便によって汚染された飼料の摂取が、酪農場での最も可能性の高い感染経路であると推定されている。感染した牛の間での伝播は、不明であるが、ミシガン州、アイダホ州、オハイオ州の農場で感染した牛を受け入れた牛群でアウトブレイクが発生したことから、牛間での伝播が示唆されている。感染した牛内でのウイルスの動態を解明するためのさらなる研究が必要とされている。

以上のことから、乳牛がHPAI H5N1ウイルスに感染しやすく、乳中にウイルスを排出することができ、その結果、乳を介してヒトを含む他の哺乳類に感染を広げる可能性があることを示した。乳牛では、乳量の減少と不明瞭な全身症状が、一般的な臨床徴候だったが、猫では神経症状を呈し死に至ることが多かった。乳牛で予期せぬ急激な飼料摂取と乳量の低下が見られた場合、または猫で神経症状が見られた場合には、HPAIウイルス感染を考慮すべきである。日本では猫に生乳を与えることは少ないものの、無殺菌乳が市販されており、農場での生乳の試飲が行われていることから、ヒトへの注意喚起は必要に思われる。生産動物(牛を含む)におけるHPAIウイルスのモニタリングは、インフルエンザウイルスの進化と生態を明らかにし、異種間伝播を防ぐために重要である。

臼井 優(酪農学園大学)