お知らせ

2024年04月22日

下水処理施設の作業員のレジストームとマイクロバイオーム

 

The resistome and microbiome of wastewater treatment plant workers - The AWARE study

Berglund F, Rodríguez-Molina D, Gradisteanu Pircalabioru G, Blaak H, Chifiriuc M C, Czobor Barbu I, Flach C F, Gheorghe-Barbu I, Măruțescu L, Popa M, de Roda Husman A M, Wengenroth L, Schmitt H, Larsson D G J.
Environ Int. 180. 108242. 2023.
Doi: 10.1016/j.envint.2023.108242.

 

都市の下水処理施設(WWTP)は、薬剤耐性腸内細菌科細菌が蓄積する場である。これらの細菌に暴露される機会の多いWWTPの従業員は、一般市民と比較して、より多様な薬剤耐性腸内細菌科細菌を保有していることが推測される。この仮説を検証するため、ルーマニアとオランダの下水処理施設で働く87人の従業員と非従業員の糞便中のマイクロバイオーム*およびレジストーム**について、ショットガンメタゲノミクス***により比較した。

その結果、薬剤耐性遺伝子(ARG)の総量や全体的な細菌組成について、両グループ間に有意な差は認められなかった。むしろ、WWTPで働く従業員のARGの量は非従業員に比べてやや低かった(図)。背景情報の解析を行うと、抗菌薬の摂取が、ARGの量に最も大きく影響を与える要因であることが明らかにされた。意外なことに、性別が消毒剤耐性遺伝子の保有と関連しており、女性は男性と比較して有意に高く消毒剤耐性遺伝子保有していた。さらに、公開データのサンプルを用いたフォローアップ調査では、化粧品や清掃製品などの化学物質に対して耐性を与える遺伝子について、性別差が有意であることが示された。したがって、化粧品や清掃製品の使用が、マイクロバイオーム中の消毒剤耐性遺伝子の量を上昇させることが推測された。

今回の研究は、WWTPで働くことが、ARG量や腸内のマイクロバイオームに大きな変化をもたらすことはないことを示唆した。一方で、居住国、最近の抗菌薬の摂取、性別などの他の要因が、マイクロバイオームやレジストームにより大きな影響を与えることが示唆された。

以上のことから、従業員と非従業員の間での薬剤耐性菌やARGの保有リスクの差はなかったが、薬剤耐性菌暴露の機会が多い人々は、特に薬剤耐性菌に関する注意意識を持つ必要があることを示した。薬剤耐性腸内細菌科細菌の暴露を受けやすい職業としては、WWTPの従業員だけでなく、農場の従業員、産業動物獣医師、伴侶動物獣医師なども考えられる。海外の調査では、これらの職業に従事する方々の、レジストームやマイクロバイオームに関する調査がいくつかあるが、日本国内でのデータは限られている。特に薬剤耐性菌の暴露の機会の多いことが想定される方々の、薬剤耐性菌に関する意識を高めるためにも、日本での職業別のレジストームやマイクロバイオームに関するデータ取得が望まれる。

 

*マイクロバイオーム; 環境や生物体内に存在する微生物(細菌、ウイルス、真菌、その他の微生物)の総体を指す。これら微生物の集団は、人間の健康、病気、地球上の生態系全体にとって非常に重要な役割を果たしている。
**レジストーム; 特定の環境や生物体内に存在する全ての薬剤耐性遺伝子の集合体を指す。例えば、病院や下水処理施設など、特定の環境には多くの異なる種類の薬剤耐性遺伝子を含むことがあり、それらはレジストームの一部を形成する。
***ショットガンメタゲノミクス; 環境サンプルや生物体内の微生物の集団を総合的に解析するための手法。特定の微生物を選択的に培養することなく、サンプル中のDNAについて、網羅的に読み取り解析することができる。

臼井 優(酪農学園大学)