お知らせ
2025年03月24日
アメリカ東テネシーの酪農場における薬剤耐性および基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生クレブシエラ属菌の陽性率
Antimicrobial resistance and prevalence of extended-spectrum beta-lactamase-producing Klebsiella species in East Tennessee dairy farms
Gelalcha B D, Gelgie A E, Dego O K.
Microbiol Spectr. 12, e0353723. 2024.
doi: 10.1128/spectrum.03537-23..
クレブシエラ属菌 (Klebsiella spp.) は乳牛の腸内に常在しており、乳牛の細菌感染症の治療に用いられるセフチオフルを含むβ-ラクタム系抗菌薬に頻繁に曝露されています。β-ラクタム系抗菌薬は、アメリカの酪農場で比較的よく使用されており、医療において重要視される基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL*)産生菌の出現につながる可能性があります。しかし、アメリカの酪農場におけるESBL産生クレブシエラ属菌の状況や薬剤耐性プロファイルについての情報はほとんど明らかになっておりません。そこで今回、酪農場におけるESBL産生クレブシエラ属菌の陽性率と薬剤耐性プロファイル、そしてESBL産生クレブシエラ属菌の出現に影響を与える要因を明らかにすることを目的として試験を行いました。
テネシー州の14の酪農場から、乳牛の直腸糞便サンプル(n=508)および環境サンプル(堆肥、飼料、水サンプルについて合計64サンプル)を収集しました。サンプルはCHROMagar ESBL培地に直接接種することでESBL産生細菌を選択的に分離し、質量分析法(MALDI-TOF MS)を用いてクレブシエラ属菌であることを確認しました。分離されたクレブシエラ属菌に対して14種類(10系統)の抗菌薬の最小発育阻止濃度を測定しました。
合計572サンプルのうち57サンプル(10%)からESBL産生クレブシエラ属菌が分離されました。また、そのうち11株(19%)のESBL産生クレブシエラ属菌は多剤耐性を示しました(図)。糞便中のESBL産生クレブシエラ属菌の陽性率は、子牛よりも成牛で有意に高く、また経産回数が多い牛(3回以上)は低い牛よりも有意に高いことが明らかとなりました(P < 0.001)。ほとんどのESBL産生クレブシエラ属菌(96.5%、n=57)は医療で重要な第三世代セファロスポリン系抗菌薬であるセフトリアキソンに耐性を示しました。ESBL産生クレブシエラ属菌が酪農場内で糞便-経口ルートを通じて維持され、さらに環境へ排出される可能性について明らかにされました。飼料、飲用槽から分離されたESBL産生クレブシエラ属菌は、農場内でこれらの細菌を維持・拡散させる上で重要な役割を果たし、感染源として機能する可能性があることが示されました。
セフチオフルを含むβ-ラクタム系抗菌薬の使用は、ESBL産生菌の選択圧となります。日本でも、乳牛に対して、セフチオフルを含むβ-ラクタム系抗菌薬が使用される機会があります。ESBL産生菌の出現は、乳牛の細菌感染症の治療を困難にするだけでなく、ヒトへ伝播した際、ヒトの細菌感染症の治療を困難にする公衆衛生上の懸念もあります。今回の結果より、酪農場には、一定の割合でESBL産生クレブシエラ属菌が存在することが確認されました。可能な限り、ESBL産生クレブシエラ属菌の存在を減少させるため、酪農場において、より一層、セフチオフルを含むβ-ラクタム系抗菌薬の慎重な使用が求められます。
*ESBL:細菌の遺伝子変異によりβ-ラクタム系薬だけでなく、第三世代・第四世代セファロスポリン系薬まで分解ができる酵素のこと。ESBL産生菌は治療が困難になるため、医療において重要視されている。
臼井 優(酪農学園大学)
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