お知らせ
2025年04月07日
nanopore sequencingによる16S rRNAアンプリコン解析による複合細菌感染を含む牛呼吸器症候群の原因細菌の迅速検出
Rapid detection of causative bacteria including multiple infections of bovine respiratory disease using 16S rRNA amplicon-based nanopore sequencing.
Okamura S, Fukuda A, Usui M.
Vet Res Commun. 48, 3873-3881. 2024.
doi: 10.1007/s11259-024-10556-0.
牛呼吸器症候群(BRD)は、子牛(乳用・肉用)病傷事故の約4割を占めており、畜産現場に甚大な被害を起こしています(図1)。BRDは、様々なウイルスおよび細菌が原因となります。ウイルス性BRDは通常、対症療法で管理されるのに対し、細菌性BRDは主に抗菌薬の経験的投与によって管理されます。しかし、この経験的投与は薬剤耐性菌の出現に関する懸念を引き起こしています。このため、病原細菌の迅速な同定と抗菌薬の適切な選択が求められています。これまで実施されてきた細菌を培養する検査方法では、原因細菌の判定には少なくとも1日かかります。そこで今回、DNAを一分子ずつ小さな穴を通し、塩基が通る際の電流の変化で塩基配列を解読するnanopore sequencingを用いた16S rRNA解析によるBRDの原因細菌の迅速な検出の有用性を評価しました(図1、図2)。
BRDと診断された100例の子牛サンプルを対象に、16S rRNAアンプリコン(PCRで増幅されたDNA)をnanopore sequencingを行うことによる原因細菌の検出と培養法を比較することで評価しました。nanopore sequencingは、BRDの牛の鼻腔スワブ、耳からのスワブ、および肺組織サンプルから、約6時間で原因細菌を種レベルで同定することを可能にしました。nanopore sequencingによってBRDの原因細菌が検出された92検体のうち、82検体(89%)が培養分離法の結果と一致しました(表、図3)。BRDにおける細菌の複合感染の発生頻度は単一感染を上回っていましたが、nanopore sequencingによる判定は、複合感染を起こす複数の原因細菌を同一検体から検出することが可能でした(図3)。
これらの結果は、nanopore sequencingによる16S rRNAの解析が、解析時間の短縮およびBRD原因細菌の正確な同定に有効であることを示しました。以上のことから、検査を開始したその日のうちに、原因細菌に効果のある抗菌薬での治療に反映することが可能になりました。この方法は特にBRDの初期スクリーニングにおいて有用であると考えられます。
開発された方法が普及することで、BRDに苦しむ子牛(乳用・肉用)や畜産農家の助けになることが期待されます。
臼井 優(酪農学園大学)
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