お知らせ
2025年05月13日
韓国の養豚場において分離された黄色ブドウ球菌の性状と薬剤耐性:cfr遺伝子陽性CC398系統の出現
Genetic characteristics and antimicrobial resistance of Staphylococcus aureus isolates from pig farms in Korea: emergence of cfr-positive CC398 lineage
Lee J B, Lin J H, Park J H, Lee G Y, Park K T, Yang S J.
BMC Vet Res. 20, 503. 2024.
doi: 10.1186/s12917-024-04360-w.
家畜関連型黄色ブドウ球菌(Livestock-associated Staphylococcus aureus, LA-SA)は、家畜に定着し、環境やヒトへ伝播するため、世界的な注目を集めています。LA-SAは、ヒトの細菌感染症の原因となり、さらに薬剤耐性遺伝子の拡散を起こす原因ともなります。過去10年間、豚農場での黄色ブドウ球菌 CC398*の高い陽性率が報告されています。
本研究では、韓国の5つの豚農場において、健康な豚(n = 110)、農場環境(n = 42)、農場労働者(n = 11)から163株の黄色ブドウ球菌を分離し、それらの薬剤耐性プロファイルおよび疫学解析を実施しました。
全国から分離された163株のうち、51株(31.3%)がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、112株(68.7%)がメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)であり、161株(98.8%)がCC398系統に属していました(表、図1)。CC398の中で最も高いspa型**の割合を示したのはt571でした(図1)。ST398に分類されたMRSAの47株はすべて、SCCmec*** Vを保有しており、ST541に分類された4株はSCCmec IVを保有していました(図1)。分離菌株の多くは、フェニコール、キノロン、リンコサミド、マクロライド、アミノグリコシド、テトラサイクリンを含む一般的に使用される抗菌薬に対して高い割合で耐性を示しました(図2)。加えて、健康な豚から分離されたCC398分離株21株(ST541-SCCmec IV MRSA 4株およびST398 MSSA 17株)は、リボソームの23S rRNAをメチル化する酵素遺伝子として知られるcfr陽性であり、最終手段として用いられる抗菌薬であるリネゾリドに対して耐性傾向を示しました。
本研究で分離されたMRSAおよびMSSAの薬剤耐性プロファイルは、2018年に豚農場から分離された74株のS. aureus(MRSA 37株、MSSA 37株)と比較されました(図3)。2023年に分離されたMRSAでは、クロラムフェニコール(64.9% vs. 98.0%)、シプロフロキサシン(70% vs. 100%)、クリンダマイシン(62.2% vs. 98.0%)、エリスロマイシン(73.0% vs. 100%)、ゲンタマイシン(45.9% vs. 74.5%)、およびテトラサイクリン(83.8% vs. 100%)に対する耐性率が2018年に分離されたMRSAに比べて有意に高いことが示されました(図3A)。同様に、2023年に分離されたMSSAでも、シプロフロキサシン(35.1% vs. 81.3%)、クリンダマイシン(45.9% vs. 99.1%)、エリスロマイシン(32.4% vs. 86.6%)、ゲンタマイシン(35.1% vs. 67.9%)、およびテトラサイクリン(54.1% vs. 99.1%)に対する耐性率が2018年分離株に比べて有意に高いことが示されました(図3B)。
今回の結果は、多剤耐性CC398黄色ブドウ球菌が、主に韓国の健康な豚および農場環境、農場従事者に定着していることを示唆しています。さらに、近年の分離株は、2018年に比べて、多くの抗菌薬に対して、耐性傾向を示しています。医療で重要な治療薬に耐性傾向を示したcfr陽性黄色ブドウ球菌は、食品安全および公衆衛生にとって重大な脅威となる可能性があるため対策が必要と考えられます。
日本においてもLA-MRSA ST398は、豚から分離されており、今後、全国的に分離頻度が増加することが懸念されます。日本において、CC398を含むLA-MRSAが拡散しないための取り組みが必要だと考えられます。
*CC398:Clonal complex(CC)は、MLSTによって解析された複数のST型が、共通の祖先を持つと推定される場合にまとめられる細菌の系統群です。CC398は、代表的なST398を含む複合体であり、LA-MRSAとして知られており、主に豚をはじめとする家畜に感染することが知られています。このようなCCの分類は、ST型の類縁関係に基づいて構築されており、遺伝的に近縁なSTが集まることでCCが形成されます。
**spa型:spa型は、黄色ブドウ球菌の遺伝子型を示すもので、特にspa遺伝子の変異を基にした一連の遺伝的特徴を示し、細菌株の識別や系統解析に用いられます。spa遺伝子は、細胞壁に結合するタンパク質をコードしており、その多様性を利用して感染源や伝播経路の追跡といった分子疫学解析が可能となります。
***SCC mec型:SCC mec(Staphylococcal Cassette Chromosome mec)の遺伝的構成に基づく分類で、MRSAの区別に使用されます。SCC mec型は、特定の遺伝子の配列や構造により複数の型(I型からVIII型まで)に分けられ、それぞれが異なる耐性メカニズムや感染経路に関連しています。
臼井 優(酪農学園大学)
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