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2025年05月13日

LC-AMP-I1, ハラクロコモリグモ由来の新規抗菌ペプチドの解析

 

LC-AMP-I1, a novel venom-derived antimicrobial peptide from the wolf spider Lycosa coelestis

 

Wang J, Liu X, Song Y, Liu Z, Tang X, Tan H.
Antimicrob Agents Chemother. 2, 30042424. 2024.
doi: 10.1128/aac.00424-24.

 

薬剤耐性は近年、重要な問題となっており、この問題に対処するため、抗菌ペプチドが革新的な抗菌薬として機能する可能性があります。抗菌ペプチドとは、タンパク質の最小単位であるアミノ酸が連なった構造をしており、哺乳類や植物、昆虫などの生物が細菌と闘うために生来備わっている物質です。また、その作用は抗生物質のように耐性菌を生み出しにくいとされています。本研究では、Lycosa coelestis(ハラクロコモリグモ)の毒液由来の新規抗菌ペプチドLC-AMP-I1について評価しました。

LC-AMP-I1は、既知の抗菌ペプチドであるサソリ由来のMeucin-24と類似性を示しました(図1)。Meucin 6種類の一般的な臨床分離多剤耐性菌(Enterococcus faecium, Staphylococcus aureus, Klebsiella pneumoniae, Acinetobacter baumannii, Pseudomonas aeruginosa, Escherichia coli)に対してMelittin(陽性対象としてのミツバチ毒由来の抗菌ペプチド)と同等の抗菌活性を持ち(図2)、バイオフィルム*の形成を効果的に抑制し、すでに形成されたバイオフィルムも破壊しました(図3)。さらに、LC-AMP-I1は熱、pH、塩イオンに対する優れた安定性を示し(図4)、ウサギ赤血球に対する溶血活性が低く、哺乳動物細胞(正常細胞と腫瘍細胞の両方)への毒性は低いものでした(図5)。また、従来の抗菌薬(レボフロキサシンやエリスロマイシン)との組み合わせは、相加的または相乗的な効果を発揮しました。好中球減少症マウス大腿部へのMRSA感染モデルでは、LC-AMP-I1を筋肉注射することによってMRSAの増殖を有意に抑制し治療効果が認められました(図6)。LC-AMP-I1は、低濃度では細胞膜の透過性に影響を与え、高濃度では細菌の構造を直接的に破壊することで作用を示すことが認められました。

以上の結果より、LC-AMP-I1は、様々な種類の多剤耐性菌感染症の治療に対する有望な選択肢となり得ることが示唆されました。近年、抗菌薬の代替として、プロバイオティクスやファージの可能性に関する研究が盛んに実施されています。一方で、抗菌ペプチドに関する報告も増えており、昆虫由来抗菌ペプチドの可能性について、研究が推進されることが期待されます。

 

*バイオフィルム:微生物や微生物が産生する物質などが集合して出来た構造体の総称です。一般に、微生物自身が産生する物質によって微生物を覆いながら形成し、バイオフィルム内で微生物は増殖などを繰り返すと考えられています。歯の表面に形成されるプラークは、バイオフィルムの代表例です。

 

臼井 優(酪農学園大学)