お知らせ

2025年05月26日

日本における伴侶動物およびヒト臨床患者から分離されたStaphylococcus pseudintermediusの薬剤感受性および遺伝的多様性:人獣共通感染症の可能性

 

Antimicrobial susceptibility and genetic diversity of Staphylococcus pseudintermedius isolated from companion animals and human clinical patients in Japan: Potential zoonotic implications

 

Usui M, Sabala RF, Morita S, Fukuda A, Tsuyuki Y, Torii K, Nakamura Y, Okamura K, Komatsu T, Sasaki J, Nakajima C, Suzuki Y.
J Glob Antimicrob Resist. 42, 66–72. 2025.
doi: 10.1016/j.jgar.2025.02.010.

 

Staphylococcus pseudintermediusは、イヌやネコなどの伴侶動物における膿皮症の主な原因菌です。近年、メチシリン耐性S. pseudintermedius(MRSP)を含む多剤耐性株の増加が深刻な問題となっています。そのため、薬剤感受性に関する包括的なデータが求められています。また、S. pseudintermediusの同定技術が向上したことに伴い、ヒト臨床患者からのS. pseudintermediusの検出が増加していることから、人獣共通感染症としての原因菌となっている可能性が指摘されており、その関連性の解明が急務となっていました。

伴侶動物由来S. pseudintermedius 111株およびヒト臨床患者由来21株について、薬剤感受性試験と動物・ヒト由来株間の遺伝学的関連性の解明のための全ゲノム解析を実施しました。動物由来株の約半数(43%)がメチシリン(オキサシリン)に耐性を示すMRSPでした(表1)。MRSPは、膿皮症治療に用いられるほとんどの抗菌薬に対して高い耐性を示しました。一方で、フロルフェニコールおよびフシジン酸は、日本では伴侶動物の膿皮症治療薬に承認されていませんが、耐性株は検出されませんでした。

ゲノム解析の結果、動物由来株ではST121、ST45、ST71が主要なST型でした(表2)。ST45およびST71は、海外の伴侶動物でも頻繁に検出されており、国際的な伝播の可能性が示されました。一方で、ST121は日本国外ではほとんど報告されておらず、日本独自の進化的経路をたどっている可能性があります。これらのST型はヒト臨床由来株からも検出され、コアゲノム解析*により両者がほぼ同一の遺伝型を示すことから、伴侶動物からヒトへの伝播が強く示唆されました(図)。

伴侶動物の細菌性膿皮症の主な原因であるS. pseudintermedius(特にMRSP)に対して、有効な承認された抗菌薬は限られていることから、さらなる新規の抗菌薬の開発が求められます。また、限定されたデータではありますが、伴侶動物からヒトへの伝播が起こっていることが明らかとなりました。伴侶動物からの伝播を防ぐため、徹底的な治療と共に、伴侶動物とは適切な距離で接することなどの注意喚起などが必要となります。

*コアゲノム解析: 複数の同種の細菌ゲノム間で共通して存在する遺伝子(コア遺伝子)を抽出・比較する手法のことで、進化関係や機能的な保存領域を明らかにすることができます。

臼井 優(酪農学園大学)