お知らせ

2025年06月09日

鶏農場でのコリスチン使用禁止後のコリスチン耐性遺伝子mcr-1陽性大腸菌の持続

 

Persistence of colistin resistance and mcr-1.1-positive E. coli in poultry despite colistin ban in Japan

 

 

Kawano K, Masaki T, Kawaguchi T, Kuroda M.
Antibiotics (Basel). 14(4), 360. 2025.
doi: 10.3390/antibiotics14040360.

 

コリスチンは、ヒトでの重篤な多剤耐性グラム陰性菌感染症に対する最終手段の治療薬として用いられるポリペプチド系抗菌薬です。コリスチン耐性菌の出現は、治療の選択肢を制限し、治療困難な感染症のリスクを高めてしまいます。獣医療現場では、歴史的に、飼料添加物および治療薬として、コリスチンをよく使用しておりましたが、内閣府食品安全員会によるヒトの健康に対するリスク評価に基づく医療上の重要性から、2018年に飼料添加物としての使用が禁止されました。一方で、獣医療現場での使用禁止による影響に関する評価は十分ではありません。そこで、今回の研究では、ブロイラー農場での飼料添加物としてのコリスチンの使用禁止が、ブロイラーが保有する大腸菌の薬剤感受性に与えた影響について調査をしました。

2024年に日本国内の5つのブロイラー農場で採取されたブロイラー盲腸便231検体から、147株の大腸菌が分離されました。これら147株のうち20株(13.6%)がコリスチンに対して耐性を示しました。さらに、コリスチン耐性大腸菌の全ゲノム解析により、コリスチン耐性株の全てからコリスチン耐性遺伝子mcr-1.1が検出されました。mcr-1.1は、5つのブロイラー農場のコリスチン耐性株で共通していました。

分離された大腸菌の遺伝子型を調べるためにMLST解析した結果、全てのコリスチン耐性菌がST1485に分類され、同一の遺伝子型の株が複数のブロイラー農場に広がっていることが示唆されました。コアゲノム解析*により、今回の研究で分離されたST1485株は高い相同性を示し、世界的に報告されているST1485株とは明確に異なることが確認されました(図1. 2)。

今回の研究により、現時点で日本において飼育されるブロイラーからmcr-1.1陽性コリスチン耐性大腸菌が分離されました。これは、2018年に飼料添加物としてのコリスチンの使用が禁止された後も、コリスチン耐性大腸菌が家畜農場で維持されていることを示しています。本研究の結果は、家畜におけるコリスチン耐性大腸菌の継続的な監視の重要性を示しており、ヒトへの伝播リスクを減らすためにも更なる対策が求められます。

*コアゲノム解析: 複数の細菌株に共通して存在する遺伝子(コア遺伝子)を抽出し、それらを比較・解析することで系統関係や進化を明らかにする手法。全体のゲノムではなく「共有されている部分」に注目することで、種内の比較における信頼性が高まります。

 

臼井 優(酪農学園大学)