お知らせ

2024年01月09日

医療においてシプロフロキサシンの処方が減少したにもかかわらず市中におけるシプロフロキサシン耐性大腸菌は増加した

 

Increase in the community circulation of ciprofloxacin-resistant Escherichia coli despite reduction in antibiotic prescriptions

 

Tchesnokova V, Larson L, Basova I, Sledneva Y, Choudhury D, Solyanik T, Heng J, Bonilla T C, Pham S, Schartz E M, Madziwa L T, Holden E, Weissman S J, Ralston J D, Sokurenko E V.
Commun Med. 3. 110. 2023.
Doi: 10.1038/s43856-023-00337-2.

 

多剤耐性菌の増加に対抗していくことは、医療上の大きな課題です。薬剤耐性菌の蔓延を防ぐため、抗菌薬の使用量の削減が推進されています。多剤耐性菌の一部は健康なヒトの腸内にも常在し、時として尿路感染症(UTI)の原因となる可能性があります。フルオロキノロン系抗菌薬の一つであるシプロフロキサシンは、UTIの治療に広く使用されてきましたが、薬剤耐性菌を抑制するために、その使用量を減らすことが強く勧告されています。そのため、2015年以降はシプロフロキサシンの使用量は着実に減少しています(図)。そこで今回、使用量の変化がシプロフロキサシン耐性大腸菌の地域分布にどのような影響を与えたかを解明するための試験が行われました。

2015年と2021年にシアトルの医療ケアシステムに登録をしており、一定期間は抗菌薬の投与を受けていない50歳以上の女性からサンプルとして糞便が集められました。サンプルから大腸菌を分離し、シプロフロキサシンに対する感受性とその特徴が調べられ、2015年と2021年の状況が比較されました(2015年と2021年で、それぞれ515株と1604株)。

2015年から2021年の間にシプロフロキサシンの処方は、3分の1程度に減少したにもかかわらず、シプロフロキサシン耐性大腸菌の保有率は14.2%から19.8%に有意に増加しました(表)。これは、シプロフロキサシンの使用に伴う染色体変異株の増加ではなく、多剤耐性クローンである ST1193*が有意に増加(1.7%→4.2%)したことが主な原因と考えられます。一方で、耐性が伝達するプラスミド性のシプロフロキサシン耐性保有株の割合は有意に低下しましたが(59.0%→30.9%)、第三世代セファロスポリン系抗菌薬**に対する共耐性***を有する分離株は有意に増加しました(14.1%→31.5%)。

シプロフロキサシンの処方が減少したにもかかわらず、シプロフロキサシン耐性尿路病原性大腸菌の市中における分布は増加し、第三世代セファロスポリン系抗菌薬に対する共耐性菌も増加しました。したがって、薬剤耐性を示す細菌によるUTIの割合を低下させるためには、常在細菌としての腸内細菌叢における耐性菌の制御も行っていくべきであることが示唆されました。

今回の結果は、シプロフロキサシンとUTIを対象とした場合、使用量を減らしても耐性率が減少しなかったとありますが、本文にもある通り、特定のST型の増加が原因と考えられ、基本的には、抗菌薬の使用量を減少させることが、薬剤耐性菌対策の基本となると考えます。今回の報告では、使用量の減少に加えて、レゼルボアとなる部分(UTIであれば腸内細菌叢)にも対策が必要であることを示しています。

*ST1193:医療の尿路感染症で拡散している多剤耐性を示すクローンの遺伝子型。

**第三世代セファロスポリン系抗菌薬:フルオロキノロン系抗菌薬と同様にヒトの医療において広範に使用される抗菌薬の一つで動物にも使用されている。

***共耐性:複数の異なる系統の抗菌薬に対して耐性を示すこと。

 

臼井 優(酪農学園大学)