お知らせ

2024年02月13日

カナダにおける生のペットフードおよび子牛との接触に関連する広範な薬剤耐性(XDR)サルモネラ感染症の発生

 

Public Health Notice: Outbreak of extensively drug-resistant Salmonella infections linked to raw pet food and contact with cattle


カナダ政府のホームページより
2023. 11. 11.
https://www.canada.ca/en/public-health/services/public-health-notices/2023/outbreak-salmonella-infections-under-investigation.html

 

2023年11月11日までに、カナダの6つの州で40例のextensively drug-resistant (XDR)サルモネラI 4,[5],12:i:-感染症*が確認されています(このうち13人が入院)(図)。XDRサルモネラに感染したのは、主に5歳以下の子供達です。分離されたサルモネラ株は広範な薬剤耐性を示し、治療に用いられる抗菌薬(セフトリアキソン、アジスロマイシン、トリメトプリム/スルファメトキサゾール、アンピシリン、シプロフロキサシン)や、その他の抗菌薬(アミノグリコシド系、クロラムフェニコール、テトラサイクリン系)に対しても耐性を示しました。そのため、抗菌薬による治療が難しいケースもありました。そこで、カナダ公衆衛生機関(Public Health Agency of Canada; PHAC)は、感染源の調査を行っています。

 

PHACの調査結果より、2つの感染源が特定されました。

1.  ペット用(犬用)の生肉
XDRサルモネラに感染した一部の患者は、発症前に生のペットフードまたは生のペットフードを食した犬と接触したことが報告されています。生のペットフードの共通した販売業者は、現在のところ特定されていません。

2. 子牛との接触
XDRサルモネラに感染した一部の感染者は、発症前に子牛と接触したことが報告されています。
なお、感染源の特定調査は、継続して実施中であり、追加の感染源が特定される可能性もあります。

 

分離された細菌株の全ゲノム配列比較**により、2020年の原因菌株と2023年の原因菌株が同一であることが確認されています。

 

サルモネラ感染症に対する感受性は、高齢者、乳幼児や免疫が低下している人々で高く、リスクが高いです。そこで、これらの人々を守るためには、以下のことについて注意をする必要があります。

1. ペットフードに関して
PHACは、特にサルモネラ感染症に対する感受性が高いヒトがいる家庭では、ペットに生のペットフードを与えることを推奨していません。有害細菌(サルモネラ属菌や大腸菌など)は、商業的に製造された生のペットフードやおやつだけでなく、手作りの食事に使用される生の肉や製品にも認められます。生のペットフードを与えられた動物は、一見すると健康であっても、有害細菌を排泄し、ヒトへ感染を広げる可能性があります。生のペットフードを調理または保存する際は、加熱するなど常に安全な食品の取り扱いを行うことで、感染を予防してください。生のペットフードや犬などに接触した後は、適切な手指衛生が重要となります。

2. 牛との接触に関して
牛に触れる前後には必ず手を洗ってください。また、牛が生息するエリアで何かに触れた場合も同様です。たとえ直接動物に触れていなくても、動物のエリアにいた場合には、手を洗うようにすることが推奨されます。また、牛の周りでは飲食を避けてください。動物、特に牛の周りでは常に子供が近づかないように監視してください。子供が動物や動物のエリアの周りにいるときに、指やおしゃぶりのような物を口に入れさせないでください。

 

日本においても、生のペットフードの薬剤耐性菌汚染や有害細菌汚染は、懸念されています。また、牛との接触によるヒトへの細菌感染は、過去にも報告されており、発生の防止が呼び掛けられています。生のペットフードの衛生管理や接触後の手指衛生の徹底により、日本でもカナダと同様の事例が起きないような取り組みが必要とされています。

 

 

*XDR: 超多剤耐性を示し、サルモネラ感染症に推奨される全ての抗菌薬に対して耐性を示す。一般に、多剤耐性(MDR)は、治療に推奨される複数の抗菌薬に対して耐性を示す。サルモネラI 4,[5],12:i:-は、サルモネラの血清型を示し、日本を含む世界各国からヒト、各種動物から分離されている。

**全ゲノム配列比較: 分離された細菌株のゲノムを、次世代シークエンサーなどで全て配列解析し、その比較を行うことで、細菌株の類似性などを明らかにすること。

 

臼井 優(酪農学園大学)