お知らせ

2023年12月05日

動物における世界の抗菌薬使用量は3年間(2017-2019年)で13%減少した!!

 

 

WOAH: New report reveals global decrease in antimicrobial use in animals
7. September. 2023.
https://www.woah.org/en/new-report-reveals-global-decrease-in-antimicrobial-use-in-animals/

 

細菌感染症の治療に用いられる抗菌薬は、人間と動物の生活環境を大幅に改善してきました。しかし今日、抗菌薬は、さまざまな分野での誤用や過剰使用によってその効力を失いつつあります。この現象は「薬剤耐性問題」として知られており、国際的に大きな問題となっています。薬剤耐性菌は、動物、人間、植物において選択され、選択された薬剤耐性菌が他の生物種に伝播することもあることから公衆衛生上の脅威となっています。薬剤耐性菌の選択は、抗菌薬の使用と明確な関連があることから、抗菌薬の使用状況をモニタリング(いつ、どのような抗菌薬がどのように使用されているか)することが重要とされてきました。モニタリングデータを活用することで、抗菌薬の最適かつ持続可能な使用を維持するための対策を実施することができます。 

そこで、WOAHは、2015年から動物における抗菌薬の使用に関する情報を各国から収集し、毎年報告書が発行されています。最新の報告書では、人間の健康にとって極めて重要と考えられる抗菌薬の使用量が、動物分野では減少していることが示されています。さらに注目すべきは、動物における世界の抗菌薬使用量は、3年間(2017-2019年)で13%減少しており、薬剤耐性菌に対する動物分野での取り組みが効果を示したことを表しています。具体的には、2017年から2019年まで、定量的情報を収集した80の参加国のデータを用いて、動物の体重1kgあたりの抗菌薬使用量を算出しました。収集されたデータは、世界の動物の65%に相当します。抗菌薬使用量は、2017年の111.45mg/kgから2019年には96.73mg/kgへと、13%の減少を示しました(図1)1)

薬剤耐性菌対策をさらに推進するため、WOAHは、動物での抗菌薬使用に関する各国のデータをデータベース化し、オンライン・プラットフォーム化し、ANIMUSEとして公開しました2)。ANIMUSEは、参加国よりデータ収集し、公開することで、現状を理解し、各国の対策の決定などに貢献するだけでなく、各国の獣医師、研究開発、企業等のすべての人々にとって有用なデータとなることが期待されます(図2と図3)。実際に、ANIMUSEを用いて抗菌薬の種類別使用量を調べた結果を図4に示します。世界的に家畜で最も使用されるテトラサイクリン系抗菌薬の使用量が2017年から2019年に減少していることがわかります。また、アジア地域やヨーロッパ地域に限定して結果を表示することも可能となります。例えば、アジア地域に限定した結果を図5に示します。アジアでもテトラサイクリン系抗菌薬の使用量は減少しているものの、他の地域に比べて使用量が多いことが見て取れます。Dr. Carolee Carlsonは、「ANIMUSEの大きな強みは、その柔軟性にある。サーベイランスプログラムを実施するどのレベルの国も、このプラットフォームで報告することができる。動物に使用される抗菌薬の量に関するその国の見識が限られていたとしても、このプラットフォームに参加することで、動物での抗菌薬の使用に関する議論が促進される。」とコメントしています。

新しい抗菌薬の開発に10年以上の時間と10億ドルの投資が必要とされています。そのため、現在の抗菌薬が何世代にもわたって有効であり続けるようにすることは、すべての人類の責務です。そのため、動物分野での継続した取り組みは必要となりますし、ANIMUSEのようなツールが有効に活用されていくことが期待されます。なお、日本では1999年から開始された動物分野での薬剤耐性モニタリング体制(JVARM)により、家畜に使用される抗菌薬の販売量を公表しています3)。また、2017年からイヌやネコの伴侶動物での販売量も公表されています3)

 

1) Annual Report on Antimicrobial Agents intended for Use in Animals. 7th Reports.
  https://www.woah.org/app/uploads/2023/05/a-seventh-annual-report-amu-final-3.pdf
2) ANIMUSE.  https://amu.woah.org/amu-system-portal/home
3) 動物医薬品検査所:動物分野における抗菌剤の使用量(販売量)
  https://www.maff.go.jp/nval/yakuzai/yakuzai_p3_6.html

臼井 優(酪農学園大学)