お知らせ
2023年09月19日
中国の医療現場における多剤耐性家畜関連型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)ST9の第3世代テトラサイクリン耐性の分布
Exploring the third-generation tetracycline resistance of multidrug-resistant livestock-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus ST9 across healthcare settings in China
Chen Y., Sun L., Hong Y., et al.
J Antimicrob Chemother. dkad174. 2023.
Doi: 10.1093/jac/dkad174
家畜における抗菌薬の過剰使用は、ヒトにおける薬剤耐性菌の増加の一因となっており、ワンヘルスの重要な課題となっています。近年、家畜関連型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(LA-MRSA)が問題となっており、中でもMLST型*のST9は中国における主要なLA-MRSAであり、ヒトの臨床現場においても出現しており問題となっています。また、MRSAの治療に使用されることのある第3世代テトラサイクリン系抗菌薬(チゲサイクリン、エラバサイクリン、オマダサイクリン)に対する耐性の増加が問題となっています。
そこで、中国で分離されるMRSA ST9のテトラサイクリン系抗菌薬に対する薬剤感受性を評価するための試験を実施しました。さらに、耐性メカニズムを明らかにするため、テトラサイクリン系抗菌薬の耐性に関わることが推定される耐性遺伝子の機能を評価する試験が行われました。全ゲノム解析により、臨床分離MRSA ST9の遺伝学的特徴を調べ、ヒト由来株と家畜由来株の系統樹が作成されました。
結果、ヒトの臨床由来MRSA ST9は複数種類の耐性遺伝子を保有し、多剤耐性を示しました。全ての臨床由来 MRSA ST9は第3世代テトラサイクリン系抗菌薬に耐性を示しました。耐性遺伝子の機能を評価した結果、テトラサイクリン耐性遺伝子tet(L)/tet(63)の獲得とrpsJ遺伝子の変異の両方が第三世代テトラサイクリン系抗菌薬に対する耐性に関連していることが示されました。系統解析の結果、医療機関で収集されたMRSA ST9は、家畜から伝播したものであることが示唆されました。MRSA ST9は、複数回の種間伝播を経て、多くの耐性遺伝子を獲得したことが考えられます。さらに、第3世代テトラサイクリン系抗菌薬に対する耐性は、家畜におけるテトラサイクリン系抗菌薬の使用による選択圧下で進化した可能性があります(図)。
家畜におけるMRSA ST9の進化及びヒトと家畜の間で伝播したことは、薬剤耐性菌問題を解決するために、ワンヘルスアプローチによる抗菌薬の管理戦略を確立することの重要性を浮き彫りにしました。日本でも豚からMRSA ST9が分離されており、家畜におけるテトラサイクリン系抗菌薬の使用量はもっとも多く、承認事項ではない感染症の予防目的での使用が問題視されています。MRSA ST9の進化を防ぐ意味でも、予防目的での使用を止めるなど抗菌薬の慎重使用が求められます。
*MLST型:細菌の遺伝子型で分子疫学解析手法の一つ。複数の遺伝子領域の変異をパターン化した菌のタイピング方法でST型として分類される。
臼井 優(酪農学園大学)
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