お知らせ

2023年09月04日

牛乳房炎原因菌の迅速診断のための16S rRNAナノポアシークエンスの応用

 

 

16S rRNA nanopore sequencing for rapid diagnosis of causative bacteria in bovine mastitis

Usui M., Akiyoshi M., Fukuda A., et al.
Res Vet Sci. 161. 45-49. 2023.
Doi: 10.1016/j.rvsc.2023.06.006

 

乳房炎は、酪農をする上で、最も問題となる感染症で、その経済損失は日本全体で年間800億円にのぼると言われています。乳房炎の治療には、主に抗菌薬が使用されますが、適切な抗菌薬の使用のためには、一刻も早い原因細菌の分離が必要です。これまで、乳汁から細菌を培養することで細菌検査が実施されておりましたが、原因細菌の判定には少なくとも1日かかります。加えて、乳房炎の原因細菌は多様であり、原因細菌の検出が困難となることも少なくありません。そのため、迅速な原因細菌の検出方法の開発が求められていました。

そこで、簡易かつ安価な携帯型シークエンサー*を用いた原因細菌の判定法の開発が行われました (図1)。

実験の結果、試験を開始してから6時間程度で、乳房炎の原因となる細菌(大腸菌や黄色ブドウ球菌など)を正確に判定する方法が確立されました。試験は、乳汁からDNAを抽出した後、PCRによる増幅を行い、塩基配列を解読することにより原因細菌を検出するといった流れになります。これにより、検査を開始したその日のうちに、判定結果を得ることができ抗菌薬による治療に反映することが可能になりました(図2)。

開発された方法が臨床現場で普及することで、乳房炎に苦しむ乳牛や酪農家の助けになること、原因細菌を判定した上で抗菌薬治療を実施する、抗菌薬の適正使用につながることが期待されます。

 

*携帯型シークエンサー:nanoporeシークエンサーと呼ばれる。DNA分子がポリマー製の膜に埋め込まれたタンパク質のナノポア(小さな穴)を通過する際に起こる電流の変化を計測し、塩基配列を解読する機器。これまでのシークエンサーとは全く異なる原理で塩基配列を解読する。安価で小さく、持ち運び可能な機器。

 

臼井 優(酪農学園大学)