お知らせ

2023年05月15日

オーストラリアのカモメ由来細菌における重要な抗菌薬に対する耐性

 

Resistance to critically important antimicrobials in Australian silver gulls (Chroicocephalus novaehollandiae) and evidence of anthropogenic origins
Mukerji S, Stegger M, Truswell A V, Laird T, Jordan D, Abraham R J, Harb A, Borton M, O’Dea M, Abraham S.
J Antimicrob Chemother. 74. 2566-2574. 2019.
Doi: 10.1093/jac/dkz242.

 

 重要な抗菌薬(CIA, Critically Important Antimicrobial)*に対する薬剤耐性菌は、野生動物-ヒト-家畜の間で伝播し、ヒトの健康に対して重大な影響を及ぼす可能性があります。世界的に各国では、家畜や野生動物由来のCIA耐性菌の動向に関心が持たれています。本研究では、オーストラリアにおいて、ヒトと接触する機会の多い沿岸部に生息する鳥類であり、渡り鳥であるカモメ(Chroicocephalus novaehollandiae)が保有するCIA耐性大腸菌の性状、疫学および起源を調査しました。

 オーストラリア大陸周囲の広範囲な沿岸からカモメの糞便のサンプリングを実施しました。大腸菌を分離し、薬剤感受性試験を実施しました。その後、分離された耐性菌については、全ゲノム解析によってMLST解析**等の分子疫学解析を実施し、その起源を解析しました。

 カモメの糞便から分離された 562株の大腸菌のうち、CIAに対して耐性を示す基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌が21.7%、フルオロキノロンに対して耐性を示す大腸菌が23.8%と非常に高いものでした。カモメから分離されたCIA耐性大腸菌(284株)は、全ゲノム解析を基にしたMLST解析の結果、ST131***(17%)、ST10(8%)、ST1193(6%)、ST69(5%)、ST38(4%)など、ヒトの腸管外病原性大腸菌(ExPEC)に主に属していることが明らかになりました。中でも、世界中のヒトで分離され問題となっているフルオロキノロン耐性大腸菌ST131およびST1193が、比較的高率に分離されたことは、公衆衛生上の懸念となります。比較解析の結果、カモメから分離されたST131およびST1193は、オーストラリアおよび海外のヒト臨床分離株と類似していることがわかりました(図)。また、特にヒトの臨床上重要な抗菌薬であるカルバペネム耐性大腸菌(ST410- blaOXA-48)およびコリスチン耐性大腸菌(ST345-mcr-1)も分離されました。

 カモメは、ヒトの病原性大腸菌に類似した多様なCIA耐性大腸菌クローンを保有していたことから、カモメはCIA耐性菌を生体内に維持し、その飛翔能力により地球規模で広範囲に拡散させる可能性があると考えられました。

*CIA: Critically Important Antimicrobialのこと。特にヒトの医療分野において重要とされる広域セファロスポリン系抗菌薬やフルオロキノロン系抗菌薬、カルバペネム系抗菌薬、コリスチン等を指す。
**MLST解析:細菌の分子疫学解析手法の一つ。複数の遺伝子領域の変異をパターン化した菌のタイピング方法でST型として分類される。

***ST131:大腸菌のST型の一つ。世界的にヒトの臨床から分離されるフルオロキノロン耐性大腸菌の主なST型である。多剤耐性を示すことが多い。

 

臼井 優(酪農学園大学)