お知らせ

2023年04月06日

病気とは戦かわずして、病気を制する!

有限会社あかばね動物クリニック 伊藤 貢

 

 茨城県かすみがうら市で2023年3月に発生した豚熱の発生は、大きな課題を投げかけられたケースでした。豚熱の発生は現在まで86例発生していますが85例まで(85例中4例は飼育イノシシの発生)は、ワクチンが接種される前か接種されてもその効果が発揮される前に感染したと思われる症例でした。しかし、86例目の発生は、ワクチンを二回接種した農場での発生でした。ワクチン接種は万全の対応をしていたと思われる農場での発生でした。

 一般にワクチンは、症状を軽減する効果、発症させない効果、感染を防御する効果があります。多くのワクチンは、症状を軽減するか、発症を抑える効果です。感染を防御するワクチンはあまり多くありません。しかし、豚熱ワクチンは、確実に接種されれば100%近く感染防御できる優れたワクチンであります。ところが、今回の発生で”ワクチンだけでは、病気は抑えられない”、事が分かりました。これは、我々に対しての警告だったように感じます。

 病気になったら、最初に使用する抗菌剤も耐性菌が年々増えている状況では、抗菌剤だけで病気に対処できなくなってきています。また、ワクチンには限界があるのです。抗生物質も耐性菌の出現で効果が低くなっています。ではどのように病気と向き合えば良いのでしょうか。答えは、”病気と戦わない”ことです。鶏や豚では一般的に言われている言葉ですが、牛の場合は、この様な考え方はまだされていませんので簡単に説明します。最初にすることは、①自分の農場で問題になっている病気を知ることです。どの病気がどの時期に発生するかを確認することは今後の対応で重要になってきます。次にすることは、②病気の種類と量を減らします。これによりウイルスや細菌の感染圧を減らします。さらに、それらと併行して行うのが、③新しい病気を農場に入れないようにします。以上の3つが重要になります。農場内で病気の対応を難しくしている原因は、いろいろな病気が重なって発症していることです。少しでも病気の種類を少なくするため、新しい病気を農場に入れないことがとても重要になります。

 病気を農場に入れないシステムとしてこれから紹介するのは、ミャンマーの養豚場のバイオセキュリティシステムの一例です。このシステムは、一般的に実施されているもので、特別ではありません(図参照)。入り口から順次説明をします。施設は、二重の壁で囲われており、野生動物は農場に入れません。人は壁の中にある宿泊施設で、シャワーを浴びて、24時間のダウンタイムをとった後に入場できます。その後内側の壁の中に入り、再度シャワーを浴びて、専用の衣服、長靴に履き替えます。そして畜舎の入り口の前室で、畜舎専用の作業着、長靴、手袋を使用して畜舎で作業をします。畜舎はネズミ、野鳥、ハエ、蚊が侵入しないように周りに防虫ネットで覆われています。特にアフリカ豚熱の場合、野鳥、ハエ、蚊などによる伝播が問題になりなるため、防虫ネットは必須です。退場は、同様の手順で戻ります。”入れない”、”広げない”、”持ち出さない”を確実に行っていることが分かります。

 車両の入場は、入る前に消毒をした後、外側の壁の中で、再度消毒を実施します。運転手もシャワーを浴びます。30分間のダウンタイムの後、内側の壁の中にある飼料タンクに外側から飼料を投入します。日本で言う飼養衛生管理区域にあたる区域には車両は入りません。退場は同様の手順を実施します。


 

 なぜここまでバイオセキュリティを徹底して実施できるのでしょうか?それには二つ要因が大きいと思われます。一つは、アフリカ豚熱により甚大な被害を起こした東南アジアの国々では、アフリカ豚熱のウイルスが環境中に存在する中で、豚を飼わなければならない状況に追い込まれ、バイオセキュリティを確実に実施しなければならなくなったことです。二つ目は、経済に関係しています。肥育豚1頭が大卒の給与の二ヶ月分に相当します。豚は非常に価値が高い動物なので、養豚業は儲かる職種であるためです。東南アジアの国々では4割以上の豚が病気で死亡し、今なお豚肉が不足しているため、この様に飼育して高値で取引されています。最初にアフリカ豚熱が入ってきたときは、どのように対応するのか分からなかったのですが、発生を経験して、現在のシステムに至ったと関係者は述べています。

 日本のバイオセキュリティは、かなり遅れていることが分かります。現在の状況でアフリカ豚熱が日本に入ったら、東南アジアで起きたと同様のことが起きる可能性は高いと思われます。バイオセキュリティを別の角度から見ると、考えが変わると思います。日本で最も利益を上げている企業養豚の経営者の方の話を聞く機会がありました。その会社は、”育種”と”病気”を重要視していました。死亡は家畜の損失に繋がり、病気に罹れば、増体は遅れ、家畜の価値は下がります。治療費が発生し、飼料効率は下がります。病気による影響は、家畜のみならず、管理者の労働意欲にも影響を与えます。治療のために余分な時間を使います。家畜が死亡すれば、搬出にも時間を費やし、へい獣の処理費用も発生します。これらを総合的に考えたとき、病気は大きなマイナス要因であることが分かります。病気を徹底的に排除することで、経営コストを少なくし、さらに衛生レベルが高まることで、能力の高い豚が威力を発揮するというビジネスモデルを作り上げました。このビジネスモデルを取り入れた養豚場が増えおり、着実に利益を伸ばしています。

 バイオセキュリティは、家畜保健衛生所からやらされているという意識が強い人が多い状況です。お金も手間もかかり、何の利益も無く、実施することにマイナスのイメージを持っていますが、実は正反対で、儲けのポイントなのです。農家がこのことに早く気づいて、実行に移して欲しいと願うばかりです。