お知らせ

2023年04月18日

アフリカ豚熱の発生状況と対策¹⁾

 アフリカ豚熱(ASF)は、豚や野生イノシシに感染する感染力の強いウイルス性疾患で、感染動物の死亡率は100%に達することもあります。人の健康へのリスクはないものの、豚の個体数を激減させ、農業経済に壊滅的な影響を及ぼすことがあります。また、豚だけでなく野生のイノシシにも感染するため、生物多様性や生態系の維持への大きな影響も懸念されます。現在、ASFに対する有効なワクチンはありません。

 ASFウイルスは環境中で高い抵抗力を持ち、衣服やブーツ、車輪などに付着しても生存することができます。また、ハム、ソーセージ、ベーコンなど、さまざまな豚肉製品の中でも生き延びることができます。そのため、適切な対策を講じなければ、人の行動を介して国境を越えた伝播を引き起こす可能性があります。

 2021年1月以降、7カ国がASFの国内初発生を報告しました(図1)。また、発生国での発生地域の増加も報告されています。そのため、バイオセキュリティ対策の強化、早期報告・対応システムの実施、バリューチェーンに関わるすべての関係者の高い感染予防意識の維持がAFSの予防に極めて重要です。

 ASFの近距離での発生は、野生イノシシの生息密度とバイオセキュリティの低い養豚システムに大きく関係すると思われるため、早期発見システムの一環として、監視プログラムを充実させる必要があります。国境を超えた伝播は人間活動に強く関連している可能性があり、個人を含む注意喚起が必要です。


 有効なワクチンがないため、ASF清浄国における防疫は、適切な検疫政策とバイオセキュリティ対策を実施し、感染した生きた豚や豚肉製品がASF清浄地域に持ち込まれないようにすることが重要です。 これには、AFS汚染国から来る航空機、船舶、車両からの廃棄食品の適切な処理と処分の実施、AFS汚染国からの生きた豚と豚肉製品の違法輸入の取り締まりも含まれます。農場レベルでは、動物の健康を維持するために、バイオセキュリティの原則を徹底する必要があります。特にヒトが病原微生物を運ぶ可能性があり注意が必要です。WOAHはポスターを作成し、ASFの拡散を防ぐ取り組みを行なっています(図2)。

 日本の周辺国ではAFSが多発しており、日本への旅客携帯品(豚肉加工品)から感染力のあるASFウイルスが検出されています2)。新型コロナウイルス感染症の感染症法上の取り扱いが変更するに伴い、AFS汚染国からの旅行者が急増することが予測されています。ASFの感染リスクを回避するため、日本国内の養豚農家において、「飼養衛生管理基準」3)を遵守し、農場のバイオセキュリティを強化することが極めて重要です。一度農場にASFウイルスが侵入したら甚大な被害を被るため、農場関係者の衛生管理に対する意識の向上が不可欠であると思います。

1)WOAH: African swine fever
  https://www.woah.org/en/disease/african-swine-fever/

2)農研機構:旅客携帯品の加熱不十分な豚肉加工品から発見された感染力のあるASFV
  旅客携帯品の加熱不十分な豚肉加工品から発見された感染力のあるASFV | 農研機構 (naro.go.jp)

3)農林水産省:飼養衛生管理基準について
  飼養衛生管理基準について:農林水産省 (maff.go.jp)

 

臼井 優(酪農学園大学)