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2023年02月27日

オランダ市中における家畜関連型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(LA-MRSA)の拡散に関わる解析

Livestock-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus epidemiology, genetic diversity, and clinical characteristics in an urban region

Konstantinovski M M, Schouls L M, Witteveen S, Class E C, Kraakman M E, Kalpoe J, Mattson E, Hetem D J, van ELzakker E P, Kerrmans J, Hira V, Bosch T, Gooskens J.

Front Microbiol. 13. 875775. 2022.

 

 近年、従来の医療で分離されるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とは性状の異なる家畜関連型MRSA(LA-MRSA)の報告が増加している。LA-MRSAは、遺伝子解析により主にCC398型に属するMRSAと定義され、ヒトの臨床上、問題とされることの多い院内感染型や市中感染型のMRSAと区別される。LA-MRSAは、豚、子牛、家禽などの家畜と密接に接触する農業従事者に対して伝播するリスクがあるとされてきた。しかし最近は、農業従事者以外の人々の間において拡散しており、皮膚、軟部組織、血流における感染症の増加と関連していることが報告されている。そのため、欧州疾病予防管理センター(E-CDC)は、LA-MRSA を「ワンヘルス」の問題として重要であるとして、潜在的なレゼルボア*とその感染経路を明らかにするための疫学調査の実施を推奨した。そこで今回、市中でのLA-MRSAの特徴を明らかにするため、家畜の飼育数が少ない市中において分離されたLA-MRSAの解析を実施した。

 2014年から2018年の間に、オランダの市中で治療を受けた患者から分離されたLA-MRSAを解析した。患者について、家畜への曝露データ、臨床所見について情報を集めた。分離された株は、全ゲノム解析を実施し、遺伝的関連性の評価、病原性遺伝子と耐性遺伝子の検出を行った。

 LA-MRSAは81名の患者から分離され、全MRSAのうち12%を占めた。76%の患者(n=61)では、家畜との関連が認めらなかった。14例で接触者の追跡調査が実施され、2例の院内感染が特定された。全ゲノム解析をもとにしたwgMLST**により、接触者追跡によるクラスターを確認し(図のcluster 1と2)、疫学的な関連性のないクラスターも検出された(図)。病原性関連遺伝子としてpvl遺伝子***(3株)、耐性遺伝子としてテトラサイクリン耐性遺伝子(79株)が検出された。

 今回、分離されたLA-MRSAの多くは、家畜との関連性がなく、ヒトの間での拡散が示された。このことから、家畜がLA-MRSAのレゼルボア*となり、ヒトに伝播し、その後、ヒトからヒトへの拡散が起こっていることが示唆された。また、重症化との関連性が示唆されるpvl遺伝子陽性株が認められたことは懸念される。以上のことから、LA-MRSAの対策には、レゼルボアの排除が重要であり、今後もLA-MRSAの拡散についてモニタリングを実施し、市中における感染経路をさらに調査する必要がある。

 

* レゼルボア:病原体が本来自然界で生息する場所のことで病原巣ともいう。
**wgMLST:全ゲノム配列解析の結果を基に、複数の遺伝子領域の変異をパターン化した菌のタイピング(MLST解析)を行うこと。
*** pvl遺伝子:白血球を溶解する毒素(Panton-Valentine leukociditn)遺伝子で、日本の豚から分離されるLA-MRSAでは陰性である。

 

臼井 優(酪農学園大学)