お知らせ

2023年01月16日

中国西部の家畜由来大腸菌におけるチゲサイクリン耐性遺伝子tet(X4)の拡散

Extensive spread of tet(X4) in multidrug-resistant Escherichia coli of animal origin in western China

Je F, Mengru S, Kun L, Jiangang M, Ruichao L, Li B, Xinglong W, Juan W, Zengqi Y.
Vet Microbiol. 109420. 2022.

 

 チゲサイクリンは、テトラサイクリン耐性菌を含む多くの薬剤耐性菌に有効なグリシルサイクリン系抗菌薬であり、ヒトの臨床において多剤耐性菌感染症の治療の際に使用される重要な抗菌薬である。現在のところ、ヒトの臨床例でのチゲサイクリン耐性菌の報告は少ないものの、近年は、伝達性のプラスミド(細菌に存在する染色体以外のDNA)を介したチゲサイクリン耐性遺伝子tet(X)が主に家畜由来細菌で報告されており、特に中国を中心とした拡散が懸念されている(ただし、家畜に対してチゲサイクリンは使用されていない)。そこで、中国西部において、家畜におけるチゲサイクリン耐性大腸菌、耐性遺伝子の拡散について明らかにするため、家畜由来大腸菌の性状解析を実施した。

 中国西部において、農場及び食肉処理場でブタ、ニワトリを含む家畜の糞便(1,497サンプル)を集めた。チゲサイクリン含有マッコンキー寒天培地でチゲサイクリン耐性菌を分離/同定を行った。分離同定菌について、チゲサイクリンを含む抗菌薬に対する薬剤感受性試験を実施した。その後、チゲサイクリン耐性遺伝子tet(X4)の検出を行い、tet(X4)陽性株に対しては、プラスミドの伝達能について確認を行った。サザンブロッティング*により、tet(X4)がプラスミド上に存在しているかの確認を行った。多剤耐性大腸菌については、全ゲノム解析を行い、ST型別**、薬剤耐性遺伝子の検出、病原性因子関連遺伝子の検出を行った。

 その結果、チゲサイクリン耐性大腸菌134株が豚の糞便から分離されたが、他の動物からは分離されなかった(表)。薬剤感受性試験の結果、これらの分離株はすべて多剤耐性菌であり、その全てがフロルフェニコールに対しても耐性を示した。チゲサイクリン耐性大腸菌134株は、全てtet(X4)を保有していた。全ゲノム解析の結果、チゲサイクリン耐性大腸菌は、27のST型に分類され、ST10、ST48、ST189、ST2223が主要なST型であった。ST型が多様であったことから、tet(X4)の拡散は、遺伝的に同一であるクローンが拡散しているわけではないことが示唆された。 tet(X4)陽性大腸菌134株のうち76株が、接合伝達による伝達能を示した。サザンブロット解析の結果、tet(X4)遺伝子をコードするプラスミドを、複数保有する大腸菌が存在することが明らかとなった(その意義は不明)。tet(X4)保有プラスミドは20〜400kbで、主なプラスミドタイプはIncX1、IncY、ColRNAIに分類されることが判明した。プラスミド上の遺伝子配列の解析より、ISVsa3がtet(X4)の下流にあり、tet(X4)の拡散に重要な遺伝子である可能性が示唆された(図)。

 以上の成績は、チゲサイクリンが未使用の豚から、多彩なST型のチゲサイクリン耐性大腸菌が分離されたもので、豚への侵入経路に興味が持たれる。今後も、医療上重要なチゲサイクリン耐性遺伝子およびチゲサイクリン耐性大腸菌の拡散リスクを評価するために、さらなる研究が必要であることが示された。日本でも、家畜へのチゲサイクリンの使用は行われていないが、我われの研究により家畜で使用されるテトラサイクリン系抗菌薬が選択圧となる可能性も示唆されており、今後も家畜におけるチゲサイクリン耐性菌の出現については、注意が必要である。

*サザンブロッティング;解析対象となる遺伝子が染色体上に存在するかプラスミド上に存在するかを確認する実験手法。

**ST型別;対象とする細菌の生存に必要な複数のハウスキーピング遺伝子の塩基配列をもとにした遺伝子型別法であるMLST(Multi Locus Sequence Typing)法で決められる型。

 

(酪農学園大学 臼井 優)