お知らせ

2023年01月02日

野生有蹄類がCTX-M型βラクタマーゼ産生多剤耐性大腸菌のレゼルボアとなる可能性(ポルトガルにおける調査結果)

A walk on the wild side: Wild ungulates as potential reservoirs of multi-drug resistant bacteria and genes, including Escherichia coli harbouring CTX-M beta-lactamases

Rita T T, Monica V C, Debora A, Helena F, Carlos F, Josman D P.
Environ Pollut. 306, 119367. 2022.

 

 ヒトの医療で重大な問題となっている基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌*が野生動物からも検出されることがあり、ESBL産生大腸菌を含む薬剤耐性菌が環境中でどのように分布、拡散しているかについての解明が求められている。そこで、ポルトガル全土において、野生の有蹄類(イノシシ、アカシカ、ダマジカ、ムフロン)から181サンプルの糞便を集め、抗菌薬含有培地を用いて薬剤耐性大腸菌の分離を行った。分離された細菌について、ディスク拡散法により18種類の薬剤に対する感受性試験を行った。さらに薬剤耐性遺伝子の検出、プラスミド解析、マルチプレックスPCRによる系統発生分類及び病原性遺伝子の検出を実施した。

 その結果、151株の薬剤耐性大腸菌が分離された。薬剤耐性プロファイルは多様であったが、特にアンピシリンに対する耐性率が72%、テトラサイクリン系抗菌薬に対する耐性率が64%と高い値を示した。耐性遺伝子としては、blaTEMtetAtetBsul2sul1dfrA1などが検出された。また,ヒトの医療でも問題となっているblaCTX-M型遺伝子(CTX-M-14,CTX-M-15,CTX-M-98)が、4サンプルから検出された(表)。野生動物におけるCTX-M-98の報告は初めてであった。また、blaCTX型遺伝子が検出された4株全てが多剤耐性であり、病原因子であるfimH、traTを有し、IncFプラスミドが検出された。

 以上の成績から、ESBL産生大腸菌の環境中のレゼルボア(病原体が自然界で本来棲息する場所のこと)として、また薬剤耐性菌の流出における野生有蹄類を含む野生動物の潜在的役割を明らかにした。つまり、ヒトで重要な薬剤耐性菌が野生動物に伝播して、野生動物で維持され、野生動物から環境へ拡散する可能性を示したもので、薬剤耐性菌対策として野生動物にも注目することの必要性を示した。

 

*基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌、ペニシリンなどのβラクタム剤を分解する酵素であるβラクタマーゼ産生遺伝子が、突然変異により分解可能な薬剤の種類を広げ、第3世代セフェム系抗菌薬をも分解するようになったもの。