お知らせ

2026年10月01日

生菌剤の先行投与は抗菌剤投与による腸内細菌叢の撹乱及び薬剤耐性菌の選択を抑制する

 

 

Pre-administration of Probiotics Suppresses Selection of Antimicrobial Resistance and Disruption of the Intestinal Microbiota Caused by Administration of Antibiotics

 

Horiguchi K, Hamasaki H, Kawakubo K, Inaba Y, Tsukahara T, Fukuda A, Usui M, Kato T

日本獣医師会雑誌 79(6), e79-e87. 2026.

doi: 10.12935/jvma.79.e79.

 

 

抗菌薬の使用は薬剤耐性菌の選択及び腸内細菌叢の撹乱を引き起こしますが、生菌剤によりその影響を制御する有効な方法は明らかになっていません。そこで、哺乳子牛における抗菌薬投与に伴う薬剤耐性菌の選択及び腸内細菌叢への影響に対し、生菌剤の投与タイミングがどのように影響するかを明らかにすることを目的として試験を実施しました。

臨床的に健康なホルスタイン種雄子牛6頭を、抗菌薬(セファレキシン、CEX)のみを5日間投与した単独群(n=2)、CEXと生菌剤(酪酸菌Clostridium butyricum)を7日間同時投与した同時群(n=2)、生菌剤を14日間先行投与した翌日からCEXを7日間投与した先行群(n=2)の3群に分け、最長42日間にわたり経時的に直腸糞便を採取しました(図1)。糞便中のセファゾリン(CEZ)耐性大腸菌群数及び分離大腸菌のCEZに対する最小発育阻止濃度(MIC)を測定するとともに、同時群及び先行群については16S rRNAアンプリコンメタゲノム解析*により腸内細菌叢の変動を評価しました。

その結果、単独群では抗菌剤投与期間中にCEZ耐性大腸菌群数及び大腸菌のCEZ耐性率(Day1、Day3でいずれも80%)が上昇しました(図2)。同時群でも両剤投与期間中は全菌株が耐性を示しましたが、先行群では生菌剤投与により耐性大腸菌群数・耐性率がいったん低下し、その後の抗菌剤投与による耐性率が上昇したものの単独群・同時群に比べて小さく、投与終了後は速やかに耐性率が0%まで低下しました。16S rRNAアンプリコンメタゲノム解析による主座標分析*でも、先行群はDay21の腸内細菌叢構成が抗菌剤投与終了直後であるにもかかわらず試験開始前と類似しており(図3)、Escherichia属菌の増加が抑えられ、Bifidobacterium属菌やPrevotella属菌などの有用菌の割合が高く保たれました。

以上より、抗菌薬投与に先行して一定期間生菌剤を投与することで、抗菌薬投与に伴うセファロスポリン耐性大腸菌の選択及び腸内細菌叢の撹乱が抑制される可能性が示されました。したがって、子牛の抗菌剤治療に際して、生菌剤を先行又は同時に併用することは、薬剤耐性菌の選択及び腸内細菌叢撹乱の抑制に有効な手段となりうると考えられます。

哺乳期子牛の呼吸器感染症や下痢症の治療では抗菌薬の使用機会が多く、薬剤耐性菌の選択や腸内細菌叢の撹乱が懸念されています。本研究の成果は試験数が少ないものの、抗菌薬治療に先行して生菌剤を投与するという方法が、薬剤耐性対策と腸内細菌叢の恒常性維持の両面で有用となりうることを示すものであり、臨床現場における生菌剤の使用タイミングを考えるうえで参考になると考えられます。

*16S rRNAアンプリコンメタゲノム解析による主座標分析:糞便中の腸内細菌の種類と割合を16S rRNAを増幅し配列解析した結果を基に解析し、「腸内細菌の構成が似ているものは近く、違うものは遠く」という図にして見やすく表す手法。この論文では、この解析によって、生菌剤を先に投与しておいた群ほど抗菌薬投与後も腸内細菌の構成が試験開始前に近い状態を保てていたことが確認されました。

 

臼井 優(酪農学園大学)