お知らせ
2026年10月19日
子牛における予防的抗菌薬投与の中止はウシ呼吸器病原因菌の薬剤感受性を回復させる
Discontinuation of prophylactic antimicrobial use in calves restores susceptibility in bovine respiratory pathogens
Okamura S, Fukuda A, Usui M
J Glob Antimicrob Resist. 50, 420-428. 2026.
doi: 10.1016/j.jgar.2026.07.023.
日本において動物用抗菌薬の承認は薬剤耐性菌を抑制する観点から治療に限定されていますが、現場では漫然と予防的に使用される実態があります。ウシ呼吸器病(BRD)原因菌の薬剤耐性は、子牛への予防的な抗菌薬投与によって助長されますが、その投与を中止した場合の影響は明らかになっていませんでした。そこで、日本のホルスタイン育成牛の預託農場において、予防的オキシテトラサイクリン及びチルミコシンの投与中止に伴う牛呼吸器病原因菌であるMannheimia haemolytica及びPasteurella multocidaの薬剤感受性の変化を評価することを目的として実施しました。
オキシテトラサイクリンは生後6~60日齢の子牛に代用乳を介して20 mg/kg/日で投与されていましたが、2022年4月に中止しました。予防的チルミコシン(10 mg/kg、到着時単回皮下注射=いわゆるウェルカムショット)は2023年5月に中止しました(図1)。2021年11月から2023年11月にかけて、BRD疑いの子牛583頭から鼻咽頭及び耳スワブ850検体を採取し、492株のM. haemolytica及び215株のP. multocidaを分離しました。これらの分離株について薬剤感受性試験及びオキシテトラサイクリン耐性遺伝子のスクリーニングを実施しました。
オキシテトラサイクリン投与を中止してから1年以上経過した時点で、両菌種ともMIC分布は感性方向へ有意に変化し、オキシテトラサイクリン耐性率はM. haemolyticaで9.2%から0%へ、P. multocidaで75.0%から5.6%へ低下しました(図2)。フロルフェニコール及びマクロライド系薬剤(チルミコシン、ツラスロマイシン)のMICも経時的に低下しました。テトラサイクリン耐性株の大部分はtet(H)遺伝子を保有していました。
オキシテトラサイクリン投与を中止した後(2022年5~10月)のBRD発生率は投与期間中(2021年5~10月)と比べて有意に上昇しましたが、不活化3価ワクチンを導入した2023年5~10月には有意に低下しました。平均日増体量(ADG)についても、オキシテトラサイクリン投与の中止により59日齢以下を除く各日齢区分で有意に低下しましたが、ワクチン導入後は同じく59日齢以下を除く各日齢区分で有意に増加しました。このことから、ワクチン接種は予防的抗菌薬に代わるBRD対策として、発生率及び増体の両面で有効である可能性が示されました。
長期にわたる予防的抗菌薬投与を中止することで、BRD原因菌の薬剤感受性を回復させることができ、ワクチン接種と併用することで治療用抗菌薬の有効性を維持するのに役立つ可能性が示されました。日本の酪農・肉用牛生産現場では、子牛のBRD対策として予防的な抗菌薬投与が依然として広く行われていますが、本研究は、漫然とした予防的抗菌薬投与を中止しワクチン接種などの代替策を組み合わせることで、薬剤耐性の低減と治療効果の温存を両立できる可能性を示す知見です。今回のデータが、子牛の生産性を損なうことなく抗菌剤の適正使用を進めることに活用されるが期待されます。
臼井優(酪農学園大学)


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