お知らせ

2026年09月10日

病院のシンク排水口におけるバイオフィルム除去は意図せず薬剤耐性の急増を引き起こす

 

Biofilm removal in hospital sink drains drives unintended surges in antibiotic resistance

 

Kotay M S., Parikh I H., Gweon S H., Barry K., et al.,
NPJ Antimicrob Resist. 4, 5. 2026.
doi: 10.1038/s44259-025-00176-2.

 

薬剤耐性菌の蔓延と増殖は、現代における最も重要な課題の一つと考えられています。排水は複雑な微生物群集の生息環境であり、細菌は水平遺伝子伝達を通じて薬剤耐性遺伝子を共有しています。病院の排水配管システムは、環境由来細菌と病原性細菌が接触し、薬剤耐性遺伝子を交換するための理想的な環境となります。病院のシンク排水口において、高度耐性を有する潜在的病原菌の検出や定着が確認された場合、汚染された配管の交換は最も広く実施されている対応策です。この研究では、病院の6室の集中治療室に設置されたシンク排水口のバイオフィルム*を対象に、ショットガンメタゲノム解析**および培養による解析を行いました。

その結果、配管交換後にバイオフィルムの群集構造が変化し、Enterobacteriaceae(腸内細菌科細菌)の存在量が増加する明確な変化が認められました(図1と図2)。さらに、新たに交換された配管では、レジストーム(耐性遺伝子群)***の増加に加え、臨床的に重要な薬剤耐性遺伝子や可動性遺伝子の増加も観察されました(図3)。

これらの結果は、汚染された配管を新しい配管に交換することが、シンク排水口におけるEnterobacteralesおよび薬剤耐性遺伝子の存在量をむしろ増加させるという予期せぬ結果をもたらす可能性を示しています。既存の複雑な環境バイオフィルムの撹乱は、意図しない微生物集団の変化を引き起こし、結果として、本来除去対象である薬剤耐性Enterobacteralesの増加につながる可能性があります。

バイオフィルムに対抗するために新しい配管に変更することが結果として、耐性菌問題の解決を困難にしているという、予想外の結果となった論文です。微生物は、生き物であることから予想外の挙動を示すことがあり、このような挙動を示す原因を解明し、適切な対策につなげていく事が重要となります。

 

*バイオフィルム:微生物が産生する物質などが集合して出来た構造体の総称です。一般に、微生物自身が産生する物質(主に、粘着性の菌体外多糖類、タンパク質やDNAなど)によって微生物を覆いながら形成し、バイオフィルム内で微生物は増殖などを繰り返すと考えられています。具体的にはシンク排水口やふろ場のぬめりがバイオフィルムです。

**ショットガンメタゲノム解析: 環境試料中に存在するすべてのDNAを断片化して網羅的に塩基配列を解読し、培養を介さずに微生物群集の構成や機能遺伝子を解析する手法。特定の菌種に限定せず、細菌・ウイルス・真菌などを含む多様な微生物の遺伝情報を同時に把握することができる。

***レジストーム(耐性遺伝子群): ある環境や微生物群集に存在する、すべての薬剤耐性遺伝子の総体を指します。病原菌だけでなく、環境中の非病原性細菌が保有する耐性遺伝子も含まれ、将来的に病原菌へ移行する潜在的なすみか(リザーバー)として重要です。

 

臼井 優(酪農学園大学)