お知らせ

2025年11月01日

カリフォルニア州の酪農場における牛呼吸器疾患に対するアンチバイオグラムの利用

 

Antibiogram use on dairy cattle for bovine respiratory disease: Multidrug resistance in Pasteurella multocida and Mannheimia haemolytica in California dairies

 

Monteiro HF, Hoyos-Jaramillo A, Garzon A, Fritz HM, Miramontes CC, Matos IM, Lehenbauer TW, Aly S, Lima FS, Pereira RV.
J Dairy Sci. 108, 10060-10072. 2025.
doi: 10.3168/jds.2025-26708.

 

多剤耐性菌による牛呼吸器感染症は、抗菌薬による治療効果を低減させ、酪農場の生産性に影響を及ぼします。アンチバイオグラム*は、細菌感染症を治療する際の経験的な判断をサポートするツールとして注目されています。しかし、多剤耐性菌の分離割合が継続して高い場合、アンチバイオグラムを用いた最適な抗菌薬の選択に悪影響を及ぼす可能性があります。そこで、本研究では、牛呼吸器疾患(BRD)と診断された子牛、未経産牛、乳牛の深咽頭スワブから分離されたPasteurella multocidaおよびMannheimia haemolyticaの薬剤感受性プロファイルを2年間にわたり評価するため、北カリフォルニアの3つの大規模酪農場において、分離菌株の薬剤感受性調査を実施しました。

合計146株のP. multocidaと63株のM. haemolyticaが分離され、薬剤感受性試験が実施されました。その結果、多剤耐性P. multocidaは15%、多剤耐性M. haemolytica は17%と、いずれも低い割合でした。多剤耐性P. multocida の陽性率は子牛(14%)、未経産牛(19%)、乳牛(12%)でほぼ同程度であったのに対し(図1)、多剤耐性M. haemolyticaは未経産牛で最も高い割合で分離され(40%)、子牛では低い分離割合(4%)でした(図2)。また、乳牛からは多剤耐性M. haemolytica は検出されませんでした。

統計解析の結果、多剤耐性BRD病原体の陽性率に最も影響を与えた要因は農場であり、1つの農場で分離された株が全多剤耐性株の94%を占めました(図3)。一方、季節の影響はわずかでした。多剤耐性病原体における最も一般的な耐性薬剤は、マクロライド系、フェニコール系、キノロン系、およびテトラサイクリン系抗菌薬でした。

本研究におけるP. multocidaおよびM. haemolyticaの多剤耐性率は低かったものの、農場管理が多剤耐性陽性率の増加と関連していました。BRD治療のためのアンチバイオグラムを作成する際には、影響する要因を考慮し、MDR分離株の潜在的陽性率を考慮する必要があることが示唆されました。

なお、この試験の分離株のアンチバイオグラムを図4及び図5に示します。例えば、図4の結果は、2年間、BRD症例から分離されたP. multocidaに対して薬剤感受性試験を実施し、耐性と感性を記録したデータになります。データについて、季節、農場、年齢ごとに集計することで、各種抗菌薬に対する感受性の傾向をつかむことができます。例えば、テトラサイクリンを例にすると、季節は春夏分離株の方が秋冬分離株に比べて耐性傾向、農場は農場3で分離された株で耐性傾向、年齢は子牛や未経産牛由来株で耐性傾向といったように区分ごとに感受性の傾向をつかむことができます。図5については、M. haemolyticaについてのデータとなります。こちらも例えば、テトラサイクリンを例にすると、季節による違いはなし、農場は農場3で分離された株で耐性傾向、年齢は未経産牛由来株で耐性傾向といったように区分ごとに感受性の傾向をつかむことができます。

獣医師が経験的な治療が必要とされる際は、平時に作成したアンチバイオグラムを参考にして、抗菌薬を選択することで、根拠に基づいた抗菌薬の使用をすることが可能となります。今後、産業動物の分野でもアンチバイオグラムの活用が進むことが期待されます。

臼井 優(酪農学園大学)

 

*アンチバイオグラム: 細菌がどの抗菌薬に効くか効かないかを示した表です。医師や獣医師はアンチバイオグラムを参考にして、感染症の治療に使う抗菌薬を選ぶことができます。