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2025年09月22日

Campylobacterにおける強力な多剤排泄ポンプRE-CmeABCの変異による多剤耐性機構の向上と進化拡散

 

Mutation-based mechanism and evolution of the potent multidrug efflux pump RE-Cme ABC in Campylobacter

 

Dai L, Wu Z, Sahin O, Zhao S, Yu E W, Zhang Q.
Proc Natl Acad Sci U S A. 121, e2415823121. 2024.
doi: 10.1073/pnas.2415823121..

 

RND型の多剤排泄ポンプ*は、グラム陰性菌の薬剤耐性において重要な役割を果たします。食中毒原因菌として重要なCampylobacter jejuni のRND型排泄ポンプであるCmeABCは、様々な抗菌薬を排泄するメカニズムとして機能しています。近年、臨床分離されたC. jejuniにおいて、複数の抗菌薬に対して、通常のC. jejuniに比べて強い耐性を示すCmeABCの変異型(RE-CmeABCと命名)を持つ株が出現しました。RE-CmeABCの臨床的重要性にもかかわらず、RE-CmeABCの機能に関連する分子メカニズムや進化の過程は不明です。

本研究では、RE-CmeABCとそのプロモーター領域を標準株に形質転換により導入して、その機能を評価しました(図1)。その結果、RE-CmeABCの形質転換によって、複数の種類の抗菌薬に対するMICが上昇しました(感受性が低下した)(表)。特に、RE-CmeABCのうち、RE-CmeB(CmeABCのうち内膜輸送タンパク質)のアミノ酸置換が、排泄オペロンのプロモーター領域における塩基変異と組み合わさることで、多剤排泄システムの機能が向上する原因であることが示されました。一方、RE-CmeA(CmeABCのうちペリプラズムタンパク質)やRE-CmeC(CmeABCのうち外膜タンパク質)は排泄機能向上との関連は認められませんでした。

RE-CmeABCは世界的に出現しており、遺伝的に多様なC. jejuni株に分布していることが示されました(図2)。また、遺伝子の水平伝達による広がりの可能性が示唆されました。特に、RE-CmeABCを保有する多くの分離株がヒト臨床分離株であり、大規模なアウトブレイク株も含まれていることから、RE-CmeABCの臨床的な重要性が明らかになりました。

進化解析では、RE-CmeBはCampylobacter coliに由来すると考えられる一方、その拡散は主に抗菌薬による選択圧によって促進され、C. jejuni で進行していることが示唆されました(図3)。

以上の結果は、RE-CmeABCの排泄機能向上のメカニズムを明らかにするとともに、抗菌薬への適応を促進する上でRE-CmeBが果たす重要な役割を示しました。

 

*RND型の多剤排泄ポンプ:細菌が抗菌薬や毒素などの有害物質を細胞外に排出することで薬剤耐性を示す主要な仕組みの一つ。このポンプは細胞膜を貫通する構造を持ち、エネルギー源としてプロトン駆動力を利用して多種多様な化学物質を排出します。

臼井 優(酪農学園大学)