お知らせ

2024年12月05日

イエバエ (Musca domestica) による海洋細菌由来薬剤耐性プラスミドの維持:海洋細菌由来薬剤耐性遺伝子がイエバエを介してヒトの住環境に侵入する可能性

 

Persistence of marine bacterial plasmid in the house fly (Musca domestica): marine-derived antimicrobial resistance genes have a chance of invading the human environment

 

Nawata K, Kadoya A, Suzuki S.
Microb Ecol. 87, 30. 2024.
doi: 10.1007/s00248-023-02341-4.

 

イエバエは、農場において薬剤耐性菌(ARB)のベクターであることが知られています。また、イエバエがさまざまな環境においてARBおよび薬剤耐性遺伝子(ARGs)を拡散している可能性も示されています。今回、魚や水産食品に存在するARBおよびARGsが、イエバエを介してヒトの住環境に到達する可能性があるという仮説を立て、検証を行いました。

海洋細菌由来ARGをコードするプラスミドpAQU1を保有する海洋細菌Photobacterium damselae (04Ya311)をイエバエに接種した後、継時的にイエバエ腸内をサンプリングし、pAQU1の相対存在量を測定しました。その結果、P. damselaeを接種後、イエバエの腸内で5日間はpAQU1*が維持されました (図1A)。大腸菌(TJW3110)が同じプラスミドを保持していた場合は、接種後にイエバエの腸内でpAQU1が維持される期間は7日を超えました。この期間は、イエバエがヒトの住環境に伝播するのに十分な期間であり、イエバエが海洋由来細菌のARGのベクターとして機能する可能性があることを示しています(図2)。イエバエの腸内細菌叢の時間経過をモニタリングしたところ、初期の細菌叢は主にEnterobacteriaceae科の細菌に占められていました。実験的に接種されたP. damselaeや大腸菌は、接種直後に腸内細菌叢で主要となりましたが、接種後72時間経過後の腸内細菌叢は、多様なEnterobacteriaceae科の細菌に占められる元の状態に戻りました。さらに、P. damselaeおよび大腸菌に保持されたプラスミドpAQU1は、接種後7日間にわたりイエバエの排泄物(ここでは糞便と吐出物の組み合わせと定義)中にも検出されたことから(図1B)、イエバエが魚や市販水産食品からヒトへのARGs伝播のベクターとして、イエバエの排泄物による食品等の汚染を通じて機能する可能性があることが示唆されました。

イエバエは食品に付着した時に、吐物と糞を頻繁に排泄します。一般に市販水産食品は屋外と区分されることのない環境(市場や店舗や加工工場など)で取り扱われることから、農場に飛翔する薬剤耐性菌を保有するイエバエが容易に侵入する可能性があります。したがって、薬剤耐性菌対策として水産食品を取り扱う環境でのイエバエ対策が重要と思われます。

 

*pAQU1: この試験では、traI遺伝子をコードするpAQU1プラスミドをP. damselaeまたは大腸菌に保有させ、これらの細菌をイエバエに接種しています。接種後、このプラスミドpAQU1が維持されたことについてtraI遺伝子を検出することで定量しています。

 

臼井 優(酪農学園大学)