お知らせ
2024年12月16日
乳牛の子宮炎治療のためのセフチオフル筋肉注射によって腸内で選択される薬剤耐性菌
Selection of antibiotic-resistant bacterial populations in the dairy cow gut following intramuscular ceftiofur treatment for metritis
Vasco K A, Bowcutt A, Carbonell S, Souza L, Robinson C, Abuelo A, Erskine R, Norby B, Zhang L, Ruegg P L, Manning S D.
J Dairy Sci. 10, S0022-0302(24)01122-6. 2024.
doi: 10.3168/jds.2023-24572.
セフチオフルは動物専用の第3世代セファロスポリン系抗菌薬です。第3世代セファロスポリン系抗菌薬は、薬剤耐性病原細菌による感染症に高い治療効果を示すため、医療においても重要な抗菌薬として認識されています。セフチオフルは、細菌感染症の治療のために乳牛に比較的よく使用されており、ヒト医療に対する影響が懸念されています。そのため、セフチオフル投与が薬剤耐性菌の選択に与える影響を明らかにすることが必要とされています。そこで、この研究では、子宮炎に罹患した乳牛にセフチオフルを筋肉注射することによって、乳牛の腸内における薬剤耐性菌選択に及ぼす影響を調べました。
抗菌薬治療が必要となることの多い一般的な細菌感染症である子宮炎に罹患した12頭の乳牛(症例群)に、5日間セフチオフルの筋肉注射による治療を行いました。対照として、セフチオフルを投与されていない12頭の健康な乳牛(対照群)を用いました。症例群の治療開始前から4週間経過するまでの毎週、症例群と対照群から、糞便サンプルが収集されました。つまり、各乳牛、5回のサンプリングを行いました(計120サンプル)。糞便サンプルについて、MacConkey寒天培地に接種し培養した後、グラム陰性菌の細菌量(菌数)を測定し、セフチオフル、アンピシリン、およびテトラサイクリンに耐性を持つグラム陰性菌の菌数を同様に測定しました。
その結果、治療前の症例群の乳牛糞便中のグラム陰性菌の菌数が、対照群の糞便よりも多かったものの、治療後1週目から4週目にかけての菌数に差は認められませんでした(図1)。セフチオフル耐性のグラム陰性菌の菌数も、治療前の症例群と対照群の間で同様に見られました。しかし、治療後1週目の症例群ではセフチオフル耐性のグラム陰性菌の顕著な増加が見られ、これは治療開始後3週目まで続きました(図2)。アンピシリンおよびテトラサイクリン耐性菌の菌数は、治療後の2つのグループ間で類似していましたが、治療前の症例群ではアンピシリン耐性菌の菌数が対照群に比べて有意に多いことが確認されました。これらの結果を総合すると、筋肉注射によるセフチオフル治療は、培養可能なグラム陰性菌の菌数に影響を与え、最大3週間にわたってセフチオフル耐性細菌を選択する可能性があることが示されました。
投与経路が筋肉注射であっても抗菌薬の投与により腸内細菌をはじめとした宿主の保有細菌にとっての選択圧になることが明らかとなりました。日本では動物用セフチオフル製剤が牛に対して承認されているものの、適応症として子宮炎は認められていません。しかし、臨床現場で子宮炎に使用されることは十分想定されます。薬剤耐性菌の拡散を最小限に抑え、公衆衛生および動物の健康を守るために、特にセフチオフルや他の医療上重要とされる抗菌薬は、二次選択薬として指定されており、一次選択薬が無効な場合にのみ慎重に使用されるべきであることが、改めて示されました。
臼井 優(酪農学園大学)
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