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2024年10月28日

酪農場におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) の牛-ヒト-環境間での伝播:ワンヘルスの視点から

Zoonotic linkage and environmental contamination of Methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) in dairy farms: A one health perspective


Roy M C., Chowdhury T, Hossain M T, Hasan M M, Zahran E, Rahman M M, Zinnah K M A, Rahman M M, Hossain F M A..
One Health. 18. 100680. 2024.
doi: 10.1016/j.onehlt.2024.100680.

 

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) は、ヒト、動物、環境に存在するグラム陽性菌であり、ヒトや動物に病原性を示すこともある上に、抗菌薬に多剤耐性傾向を示すことから、公衆衛生上の課題となっています。この研究の目的は、ワンヘルスの視点から、酪農場の牛・環境・ヒトにおけるMRSAの拡散、伝播の実態を解明することです。

生乳と牛の鼻腔スワブ、酪農場で働くヒトの鼻腔スワブと酪農場の環境サンプルの合計636サンプルからMRSAの分離が試みられました。全てのサンプルを対象にしたMRSAの陽性率は、13.4%(271/636)でした。特に、陽性率が高かったのは、環境サンプル(19.3%)であり、酪農場において環境がMRSAの伝播に重要な役割を果たしている可能性が示されました(図1)。牛の鼻腔スワブの陽性率は13.3%、ヒトの鼻腔スワブの陽性率は15.1%でした。一方、生乳の陽性率は11.8%で、対象としたサンプルの中の陽性率としては最も低い値でした。

分離されたMRSAについて、マルチプレックスPCR解析により、毒素の保有実態を調べたところ、エンテロトキシン*(sea, seb, sec, sed)や表皮剥脱毒素**(eta, etb)を産生する遺伝子を保有する株もあり、ヒトに伝播した場合、公衆衛生上の脅威となり得ることが示されました。すべてのMRSA株は、オキサシリン(100%)およびアモキシシリン(100%)に対して耐性を示しましたが、バンコマイシンに対しては、85.8%の株が感性を示しました(図2)。さらに、これらのMRSA株は他の抗菌薬にも様々な程度で耐性を示し、セフォキシチン(75.3%)、セフタロリン(71.2%)、スルファメトキサゾール・トリメトプリム(63.5%)、シプロフロキサシン(60%)、ゲンタマイシン(49.5%)に対する耐性が確認されました。

同一酪農場内で牛、ヒト、環境からMRSAが検出されたことは、環境を介した牛やヒトへのMRSAの伝播リスクを示しています。MRSA分離株におけるmecA遺伝子の系統解析により、これらの分離株間で高い類似度(>84%)が認められ、共通の起源の存在が示されました(図3)。さらに、生乳からのMRSA分離株は、ケニアおよびブラジルのMRSA分離株と密接な関係を示し、ヒトおよび環境からのMRSA分離株はアジアのいくつかの国のMRSA分離株と高い類似性を示しました。

以上の結果より、酪農場での公衆衛生上のリスクを低減するため、ワンヘルスの視点での取り組みが不可欠であることが示されました。なお、日本でも同様の調査が行われていますので紹介すると、屠場に搬入された牛の鼻腔スワブ(219検体)の21%からメチシリン感受性黄色ブドウ球菌が分離されましたが、MRSAは分離されませんでした(Sato et al., 2015)。しかし、牛乳房炎由来のMRSAを市販牛肉由来MRSAとヒトの臨床由来市中感染型MRSAと比較したところ、遺伝子型(MLST型)ST8が共通に認められ、PFGE解析を含む分子疫学的特徴も一致しました(Sato et al., 2017)。したがって、日本でも論文と同様にMRSAの牛-食肉-ヒト間での伝播があり、ワンヘルスでのMRSA対策が必要に思われました。

 

*エンテロトキシン: 食中毒の原因となる毒素です。この毒素が含まれた食品を摂取すると、吐き気や嘔吐、腹痛などの症状が数時間以内に現れます。

**表皮剥脱毒素: 皮膚の細胞間結合を破壊し、皮膚の表面が剥がれるような症状を引き起こす毒素です。

 

臼井 優(酪農学園大学)