お知らせ

2024年10月15日

日本の動物からのblaNDM-5保有大腸菌ST12の最初の分離報告(犬の子宮蓄膿症より)

First report of a blaNDM-5-carrying Escherichia coli sequence type 12 isolated from a dog with pyometra in Japan

 

Harada K, Miyamoto T, Sugiyama M, Asai T.
J Infect Chemother. In press. 2024.
doi: 10.1016/j.jiac.2024.02.013.

 

カルバペネム系抗菌薬に対して耐性を示すカルバペネマーゼ産生腸内細菌群(CPE*)は、ヒトの臨床で深刻な問題となっています。カルバペネム系抗菌薬は、ヒト医療において最終手段として使用されることもあり、動物を対象とした承認はありません。それにも関わらず、いくつかの国では、伴侶動物由来のCPEがまれに分離報告されています。一方で、日本ではこれまでに動物からのCPEの分離報告はありませんでした。今回、日本で初めてCPEに感染した犬の症例が報告されました。

患畜は子宮蓄膿症のために入院した犬(ミニチュアダックスフンド 13歳)で、入院する8ヶ月前に大腸菌による子宮炎の治療のため、ファロペネム**を1ヶ月間投与されていました。患畜の子宮から排出された膿が、細菌学的検査に供され、大腸菌が分離同定されました。分離された大腸菌は、ピペラシリン、アモキシシリン-クラブラン酸、セファゾリン、セフタジジム、セフェピム、メロペネム、アミカシン、スルファメトキサゾール-トリメトプリムに耐性を示し、アズトレオナム、ミノサイクリン、レボフロキサシンに対しては感性を示しました。次世代シークエンシング解析により、IncFII型プラスミド上にカルバペネマーゼ産生遺伝子であるblaNDM-5遺伝子が他の薬剤耐性遺伝子(blaTEM-1brmtB、aadA2bleMBLsul1、qacE、およびdfrA12)とともに存在していることが明らかとなりました。大腸菌の血清型は、O4:H5型であり、MLST型はST12でした。この症例は、ドキシサイクリンとオルビフロキサシンの投与による治療で回復しました。

blaNDM-5を保有する大腸菌は、他国の伴侶動物からも分離報告があることから、この薬剤耐性プラスミドが、伴侶動物に感染を引き起こす国際的なCPEの一つであることが示唆されました。今回、分離されたIncFIIプラスミド上のblaNDM-5周辺の遺伝子配列を他のblaNDM-5を保有するプラスミドと比較しました(図1)。今回のプラスミドは、ミャンマーで発見されたヒト由来大腸菌のpM214_FIIとほぼ同一で、ラオスで検出された鶏由来大腸菌のpEM06-18-14_2およびアラブ首長国連邦で見つかったヒト由来Klebsiella pneumoniaeのpABC143C-NDMと類似していることが確認されました。さらに、日本で検出されたヒト由来大腸菌のIncFIB/FIIハイブリッドプラスミド(pFUJ80154-1およびpKY1497_1)とも類似していました。したがって、blaNDM-5を保有する大腸菌が、プラスミドやトランスポゾンを介して拡散している可能性を示しました。

今回、伴侶動物からCPEが検出された理由の一つとして、ファロペネムの長期使用が考えられます。今回のように、blaNDM-5が他の多くの薬剤耐性遺伝子と同一のプラスミドに存在した場合、他の系統の抗菌薬を使用することによってもCPEが選択される可能性があります。そのため、抗菌薬の慎重な使用、使用期間の検討は重要となります。今回の発見は、日本および他国においても、ワンヘルスの視点から、CPEが伴侶動物で選択され保有する可能性があることに注意をする必要があることを示しています。

 

 

*CPE: carbapenemase-producing Enterobacteralesの略。日本のヒト臨床で分離されるものは、IMP型のメタロβラクタマーゼを産生するものが多い。

**ファロペネム: ペネム系に分類される抗菌薬の一つで、犬に対する承認はありません(カルバペネム系とは異なる)。

 

臼井 優(酪農学園大学)