お知らせ

2024年09月30日

ハンドソープや目薬を介した眼の細菌感染症(緑膿菌感染症)のリスク

 

Eye infection risks from Pseudomonas aeruginosa via hand soap and eye drops

 

Gitter A, Mena K D, Mendez K S, Wu F, Gerba C P.
Appl Environ Microbiol. 90. e0211923. 2024.
doi: 10.1128/aem.02119-23.

 

眼の細菌感染症は、詰め替えハンドソープや目薬が細菌汚染されていることに起因して引き起こされることがあり、視力障害などにつながる恐れがあります。2023年には、アメリカでカルバペネム耐性緑膿菌に汚染された人工涙液による感染が起きており、少なくとも81人が重篤な眼の感染症にかかり、4人が死亡しました。眼に感染症を起こす原因菌として問題となる緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は、ハンドソープの容器内や目薬の容器内で大量に増殖する可能性があります。今回、ハンドソープや目薬を原因とする眼の緑膿菌感染症のリスクを評価するために、定量的微生物リスク評価*を実施しました。定量的微生物リスク評価は、食品や環境中の病原性微生物へのヒトの曝露による感染症の発生確率を推定するための研究手法です。

今回の研究では、眼の感染症が発症する確率予測をベータポアソン分布モデル**を用いて、以下の2つの暴露シナリオで行いました。

  1. 細菌汚染された目薬を使用するヒト
  2. 細菌汚染されたハンドソープで手を洗った後にコンタクトレンズを装着するヒト

細菌に汚染された目薬またはハンドソープを使用した場合、眼に感染症が起こる中央リスク***は、1日あたり単一または複数回の暴露で10-1から10-4の範囲でした(図1)。細菌に汚染されたハンドソープよりも、細菌に汚染された目薬は、直接的に眼に投与されるため、より高い感染リスクを示しました。緑膿菌の汚染濃度が高いほど、眼の感染症を起こすリスクは高くなり、汚染濃度がリスクに最も大きな変動をもたらす要因として特定されました(図2と図3)。そのため、眼の感染リスクを減らすためには、保存料を含む目薬を使用することによる細菌の増殖抑制や、詰め替え式でないハンドソープの使用による汚染の継続を遮断することが推奨されます。緑膿菌は様々な自然環境でも増殖をすることができることから、菌の増殖と暴露を軽減するための安全対策が重要となります。

一般にヒトや動物は緑膿菌に対して自然抵抗性を示し、免疫不全状態にならないと容易に感染しないとされています。しかし、眼の角膜には微小な傷口が作られることがあり、緑膿菌が比較的感染しやすいとされています。実際に実験動物の角膜に損傷を与えて緑膿菌を接種する実験感染モデルが提唱されています(現在は動物福祉の観点から実施されなくなっています)。したがって、眼に直接触れることによる目薬の緑膿菌汚染は注意が必要とされています。一方、獣医療現場においても、ハンドソープは使用され、環境を考慮した詰め替え用の容器が普及しています。しかし、詰め替え式には汚染、そこからの感染のリスクがあることを考慮して使用することが重要になります。

 

*定量的微生物リスク評価: 微生物による健康リスクを数値化するための手法。ハザードの特定、発生評価、暴露評価、影響評価、リスクの特性化が行われる。

**ベータポアソン分布モデル: 微生物リスク評価において影響評価をするために使われる確率分布。個体がハザードに暴露された場合に発症する確率を表すために用いられる。

***中央リスク: リスク評価において、特定のシナリオに対して、代表的または平均的なリスクを示す値。個々のリスクのばらつきを考慮せず、全体としてのリスクを評価する際に用いられる。

 

臼井 優(酪農学園大学)