お知らせ

2024年09月16日

フルオロキノロン耐性大腸菌ST131のヒトから環境や野生動物への伝播

 

Traces of pandemic fluoroquinolone-resistant Escherichia coli clone ST131 transmitted from human society to aquatic environments and wildlife in Japan

 

Sato T, Uemura K, Yasuda M, Maeda A, Minamoto T, Harada K, Sugiyama M, Ikushima S, Yokota S, Horiuchi M, Takahashi S, Asai T.
One Health. 18. 100715. 2024.
doi: 10.1016/j.onehlt.2024.100715.

 

世界中で薬剤耐性菌のヒト、動物、環境の間での伝播が増加していることが懸念されています。腸管外病原性大腸菌(ExPEC)は、ヒトの臨床現場で尿路感染症や血流感染症を引き起こす最も一般的な病原性グラム陰性細菌です。国際的に高リスクなフルオロキノロン耐性ExPECクローンである遺伝子型であるST131は、その病原性、拡散、およびCTX-M型拡張スペクトラムβラクタマーゼ(ESBL)を産生することによる第3世代セフェム系抗菌薬に対する耐性のため、過去20年間にわたり問題となってきました。そのため、ST131の分布状況について、ヒトの臨床からは広く報告されていますが、周辺環境へのST131の伝播については、十分に解明されてきていませんでした。

そこで、自然界に分布するST131の由来を特定するために、2016年から2021年に、野生動物の糞便から分離された5株のST131(アライグマ、シカ、キツネ)および11株のST131(河川や湖の水)について、ヒト臨床由来株と比較しました(表)。この比較は、全ゲノムシークエンスから得られたゲノムデータを基にした単一塩基多型(SNP)解析*により行われました。

その結果、河川/湖沼水および野生動物からのST131分離株は、系統型IまたはIIに属していました。これらの中で、系統型Iに分類された11株は血清型O25:H4であり、アクセサリーゲノム解析**の結果、4つのクラスターc(n=4株)、e(n=5株)、fおよびh(それぞれn=1株)に属していました。日本の河川/湖沼水および野生動物由来の系統型は、C1-M27(クラスターcおよびf)、C1-nM27(クラスターe)、およびC2(クラスターh)の3つのクレード***で構成されていました。これらの結果は、ST131が一定の頻度で日本の水環境および野生動物に広がっていることを示しています。

また、以下の結果により、ST131がヒトから水環境/野生動物に広がることを示唆しています。i)現在の研究および以前の結果に基づいて、ヒト、野生動物、および河川/湖水の間で同一のST131系統およびクレードが認められた;ii)ヒトにおけるフルオロキノロン耐性大腸菌の高い分離割合およびヒトにおける特定のクレードの優勢;iii)2004年頃、ヒト臨床分離株からST131クレードC1が報告されているが、日本の自然界からの報告はヒトからの報告前にはなかった; iv)日本の他の地域でも最近の報告によって、下水からST131が分離されたことです。

今回の研究から水環境および野生動物から分離されたST131は、日本の臨床現場で広がるST131クローンと遺伝的に関連していることが明らかになりました。この発見は、人間社会から周囲の環境へのST131の伝播と汚染に対する警告であり、One Healthアプローチに基づく継続的なモニタリングが必要であるとともに、薬剤耐性菌対策として伝播経路を遮断することの重要性を示しています。

*SNP解析: 次世代シークエンスにより全ゲノムを解析し、単一塩基多型(SNP)を検出する方法。この解析により、生物間の系統関係や遺伝的多様性を明らかにし、進化や伝播パターンを解析します。

**アクセサリーゲノム解析: コアゲノム(今回であれば、全ての大腸菌に共通する遺伝子セット)以外の遺伝子、すなわちある個体群内で変動がある遺伝子(アクセサリー遺伝子)を解析する方法。これにより、特定の環境や条件下での適応や機能に関連する遺伝子の役割や分布を理解し、集団間の遺伝的多様性を評価する。

***クレード: 共通の祖先から進化した系統を指す。進化系統樹において、特定の枝(クレード)は、その祖先と子孫を含むグループを表す。


臼井 優(酪農学園大学)