お知らせ

2024年08月19日

携帯電話上の細菌コロニー形成: 神話か現実か?

Bacterial colonization of mobile phones: Myth or Reality

 

Sure S S, Narayanan C D, Kuman N, Chandramohan N.
Cureus. 16. E60060. 2024.
doi: 10.7759/cureus.60060.

 

一般にヒトが密接に接触する機器として携帯電話があります。細菌はヒトの手を介して携帯電話に長時間留まり、院内感染症を引き起こす可能性があります。これは主に、携帯電話が医療従事者にとって不可避な利用がなされており、病棟で使用後の消毒が十分に行われていないことが考えられます。そこでアンケートを用いて、教育病院の病棟に定期的に通う医学生の携帯電話の使用状況と消毒習慣を評価し、細菌の存在と抗菌薬に対する耐性を評価するために培養試験を行いました(図1)。

各携帯電話に、3本の滅菌綿棒を使用しました。増殖が確認された場合は、培養スメアを作成し、細菌の種類を評価しました。参加者には、標準的な消毒プロトコルに基づいた携帯電話の消毒についての教育が行われました。研究には103人の医学生が参加し、そのうち51人が男性、52人が女性でした。すべての学生が病棟で常に携帯電話を使用しており、43%はトイレにも携帯電話を持ち込んでいました。調査対象の学生のうち、定期的に携帯電話を消毒していたのは23%のみでした。サンプルとして採取されたすべての携帯電話に細菌が存在していました。サンプリングから得られた結果によると、ほとんどの細菌は好気性環境に適応し、空気に対して抵抗性を持つものでした。すべての細菌の中で、好気性耐性菌(48%)と微好気性菌(3%)がそれぞれ最も高い検出頻度と最も低い検出頻度を示しました。サンプルの携帯電話の大多数(76台)からの分離株は第三世代セフェム系抗生物質であるセフィキシムに耐性があり、1台の携帯電話からの分離株は医療において重要なグリコペプチド系抗生物質であるバンコマイシンに耐性がありました。9台の携帯電話にはバンコマイシン耐性腸球菌が検出されました。携帯電話を消毒しなかった参加者の携帯電話について、95.89%と97.59%がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)およびメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)にそれぞれ陽性でした。

以上の調査成績から考えると病院の感染制御において重要な院内感染を減少させるためには、携帯電話に対する標準的な消毒プロトコルの遵守が必要です。近年、携帯電話が医療現場だけでなく獣医療現場でも、農場内や伴侶動物の現場で活用されるようになってきています。一方で、この論文が示すように、携帯電話がレゼルボアとなり薬剤耐性菌を含む細菌を移動させてしまう可能性があります。携帯電話の消毒プロトコルを作ることや、病原細菌を持ち込まない、持ち出さないための運用プロトコルの確立と実施が、今後、獣医領域でも必要になると考えられます。

臼井 優(酪農学園大学)