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2024年09月02日

総説:農業分野での抗菌薬の使用とその影響

The use and impact of antibiotics in plant agriculture: A review

 

Batuman O, Britt-Ugartemendia K, Kunwar S, Yilmaz S, Fessler L, Redondo A, Chumachenko K, Chakravarty S, Wade T.
Phytopathology. 114. 885-909. 2024.
doi: 10.1094/PHYTO-10-23-0357-IA.

 

生産者たちは、20世紀半ばから農業分野の作物の細菌感染症対策として、ストレプトマイシンやオキシテトラサイクリンといった抗菌薬を農薬として使用してきました。気候変動が作物の細菌感染症の流行を拡大する中で、これらの抗菌薬による対策が、必ずしもうまくいかなくなっています。壊滅的な細菌感染症の流行に対する特定の抗菌薬への強い依存は、最終的に薬剤耐性菌による問題の発生を起こしました。アメリカにおける農業での抗菌薬の使用は、全体の0.5%未満に過ぎないものの、抗菌薬の使用状況、環境への残留、および細菌集団における薬剤耐性の存在をモニタリングすることは依然として重要です。

農業における抗菌薬の使用は、当初、バラ科果樹におけるErwinia amylovoraを原因とする火傷病のストレプトマイシンによる制御を目的としていましたが、現在では商業的な柑橘類栽培におけるグリーニング病(HLB)など、他の細菌感染症に対する対策としても使用されています。一方で、抗菌薬による対策は当初大きな成功を収めましたが、薬剤耐性を示す植物病原細菌が報告されて問題となっています。アメリカの農業における抗菌薬の使用は、流出や非標的散布による環境汚染の懸念を伴う厳しい規制の対象となっています。また、植物病原菌における獲得耐性が水平遺伝子移動を通じて、動物やヒトの病原菌に伝達される可能性への懸念があり、このことが植物農業における抗菌薬の使用を制限する要因となっています。

これまでに、アメリカで使用されてきた抗菌薬の総量を図に示します。図から明らかなように、農業分野での抗菌薬の使用量は最近大きく増加しています。アメリカで承認されている抗菌薬は、ストレプトマイシン、オキシテトラサイクリン、カスガマイシンの3種類ですが、アメリカ以外の国では、その他の抗菌薬も承認され使用されています(表)。しかし、どの抗菌薬に対しても薬剤耐性菌が出現しています。したがって、スプレーによる抗菌薬の使用ではなく、幹注入など、よりターゲットを絞った適用方法を活用し、現在の抗菌薬の効果を維持することが重要な焦点となっています。

農業分野では、抗菌薬が使用されているにもかかわらず、薬剤耐性菌の実態、ヒトや動物、環境との関わりについては不明な点が多いとされています。日本においても、2021年度の調査で全抗菌薬販売量の7.9%(133.2t)を農薬で占めているものの、使用状況、環境菌の耐性状況の確認といった実態が不明であり、早急に全体像の把握が求められます。

臼井 優(酪農学園大学)