お知らせ
2024年06月03日
焼成ホタテ貝殻粉末および石灰窒素による堆肥中の薬剤耐性菌の制御
Heated scallop-shell powder and lime nitrogen effectively decrease the abundance of antimicrobial-resistant bacteria in aerobic compost
Enami M, Fukuda A, Yamada M, Koyae Y, Nakajima C, Suzuki Y, Usui M.
Environ Tech Innov. 34. 103590. 2024.
doi: 10.1016/j.eti.2024.103590.
薬剤耐性菌(ARB)/薬剤耐性遺伝子(ARG)の選択と拡散は、世界的な公衆衛生上の懸念事項となっている。ARB/ARGの選択は抗菌薬の使用にともなって起こり、抗菌薬が使用された畜産動物の糞便には、多種類のARB/ARGが含まれることが知られている。畜産動物の糞便は、多くの場合、堆肥として処理されるが、堆肥中からもARB/ARGが検出されており、環境を介して、畜産動物間を循環することやヒトへ伝播することが懸念されている。そのため、畜産廃棄物由来ARB/ARGを減少させ、畜産動物から環境へのARB/ARGの拡散を防ぐための手段が求められている。
この研究では、好気性堆肥化において畜産廃棄物由来のARB/ARG量を減少させるために、環境にも優しい産業廃棄物であるホタテ貝殻を焼成した焼成ホタテ貝殻粉末(HSSP)と肥料としても用いられる石灰窒素(LN)に着目して実験した。HSSPとLNは、いずれも酸化カルシウムが含まれており、水と反応すると強いアルカリ性を示す水酸化カルシウムが生成される。この水酸化カルシウムには高い殺菌作用がある。そこで、HSSPとLNを堆肥に混和することによる、耐性菌を含む細菌制御の可能性について検証を行った。
堆肥に含まれるいくつかの細菌(大腸菌、緑膿菌、サルモネラ属菌、黄色ブドウ球菌、および腸球菌)または家畜の糞便に含まれるClostridioides difficileの芽胞を畜産動物の糞尿上清に添加した上で、様々な濃度のHSSP/LNを混和することで、HSSPとLNの殺菌効果を調べた。結果、2%のHSSPまたはLNの添加によって試験をした細菌の全てで定量限界以下まで減少し、4%のHSSPまたはLNの添加によってC. difficile芽胞も定量限界以下まで減少した(図1)。その後、野外の豚農場でHSSP及びLNの堆肥への混和の効果を検証した。豚の糞便ともみがらの混合物に4%のHSSPまたはLNが混和され、13日間の好気性堆肥化が実施された。継時的にサンプリングされ(添加前、添加直後、2日後、13日後)、ARBを含む細菌量(大腸菌、大腸菌群、グラム陰性菌)やARG量、細菌叢について解析した。結果、HSSP/LNを混和した後すぐに、ARBを含む細菌量は定量限界以下まで減少した(図2)。一方、ARGは有意に減少しなかった。HSSP/LNの混和は、堆肥内の細菌叢の多様性に有意な影響を与えた(図3)。HSSP/LNの添加により、特にバクテロイデス属菌(Bacteroidetes)が減少した。
畜産動物の糞便を由来とするARBを含む細菌は、適切でない堆肥化が実施された場合に、堆肥中に残ってしまう。野外での好気性堆肥化は、保管条件などの環境要因により常に適切な条件下で行われるわけではなく、必ずしも堆肥全体の温度が十分に上がらないことが多くある。今回の結果より、HSSP/LNの堆肥への混和により、堆肥のpHを上げ、芽胞形成細菌やARBを含む細菌を減少させることが可能であることを明らかにした。今後は生成された水酸化カルシウムの堆肥有用成分への影響を検討する必要があるものの、堆肥へのHSSP/LNの混和は、ARBを制御する有効なオプションとなる可能性があることが示された。
臼井 優(酪農学園大学)
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