お知らせ

2024年06月17日

日本のヒトでの薬剤耐性サーベイランス: 標準化した薬剤感受性試験結果をゲノムモニタリングに追加した腸内細菌目細菌の薬剤耐性状況の解明

National genomic surveillance integrating standardized quantitative susceptibility testing clarifies antimicrobial resistance in Enterobacterales

 

Kayama S, Yahara S, Sugawara Y, Kawakami S, Kondo K, Zuo H, Kutsuno S, Kitamura N, Hirabayashi A, Kajihara T, Kurosu H, Yu L, Suzuki M, Hisatsune J, Sugai M.
Nat Commun. 14. 8046. 2024.
doi: 10.1038/s41467-023-45316-4.

 

薬剤耐性は、世界的な公衆衛生上の懸念事項である。特に、第三世代セファロスポリン(3GC)およびカルバペネム系抗菌薬に耐性を持つ大腸菌などの腸内細菌目細菌(Enterobacterales)は、最も重要な問題となっている。薬剤耐性菌の拡散状況を把握するため、日本では全国を対象とした薬剤耐性菌のサーベイランスとして厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS*)が行われている。JANISは、4,000以上の医療施設が参加しており、その医療施設で分離された細菌の薬剤感受性試験のデータを集計しているが、耐性菌の遺伝情報を得ることはできない。そこで、日本全国から集められた3GCおよびカルバペネム系抗菌薬に対して感受性が低下したEnterobacterales(大腸菌とKlebsiella pneumoniaeを含む4,195分離株)に対して、ゲノムシーケンシング(ゲノムモニタリング)と標準化された薬剤感受性試験を実施した。

結果、3GC耐性メカニズムの完全な分類が可能となり、その過程で各blaCTX-MやAmpC β-ラクタマーゼを保有するプラスミドの特徴を明らかにした(図1)。大腸菌が保有するblaCTX-MはblaCTX-M27が最も多く(28.2%)、その次にblaCTX-M-15が多かった(26.0%)。K. pneumoniaeが保有するblaCTX-MはblaCTX-M-15が最も多かった(45.1%)。AmpC型β-ラクタマーゼ遺伝子を保有する株のβラクタマーゼの型は、blaCMY-2とblaDHA-1が多かった。プラスミドの複雑な構造多型を検出できるロングリードシーケンス解析により、blaCMY-2の約60%、blaDHA-1の約40%が、それぞれ特徴的な類似したプラスミドにコードされていることが明らかになった。また、カルバペネム系抗菌薬に対して表現型としては感受性であるため、標準的な薬剤感受性試験では検出されないカルバペネム耐性遺伝子を持つ株が存在することが明らかとなった。また、系統的なロングリードシーケンス解析により、三つのカルバペネム耐性遺伝子をコードする183個の完全プラスミド配列の再構築が可能となり、レプリコン型**の種類、菌種の関係を明らかにすると共に、その地理的分布についての知見を得ることができた(図2)。例えば、blaIMP-6をコードするIncNプラスミドは、過去に報告されたように日本の西部地域においてクラスター化され、約62%がKlebsiella spp.によって運ばれ、11の遺伝子型(ST型)を構成していた。これらの結果は、日本の西部地域内でのKlebsiella spp.内および異なる細菌種の間でblaIMP-6をコードするプラスミドが拡散していることを示唆した。

今回の研究は、薬剤耐性について深い理解を得る上で今後の世界標準となる指標を示すと共に、薬剤耐性菌の脅威と戦うための戦略開発に貴重な情報を提供した。

 

*JANIS: 厚生労働省院内感染対策サーベイランス(Japan Nosocomial Infections Surveillance)のこと。院内感染対策に有用な情報の提供を行うことを目的としており、医療機関ごとに「薬剤耐性菌の分離率」や「院内感染の発症率」に関するデータを収集している。2024年1月の時点で4207の医療機関が参加している。
**レプリコン型: プラスミドが複製されるために必要な特定のDNA配列の領域を指す。 プラスミドは、複数の種類があり、それぞれ異なるレプリコン型を持っている。

臼井 優(酪農学園大学)