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2024年03月11日

生乳を飲んだことによるカンピロバクター食中毒のアウトブレイク(日本からの報告)

 

Outbreaks of Campylobacteriosis caused by drinking raw milk in Japan: Evidence of relationship between milk and patients by using whole genome sequencing.

Ohno Y, Sekizuka T, Kuroda M, Ikeda T.
Foodborne Pathog Dis. 20. 375-380. 2023.
Doi: 10.1089/fpd.2023.0042

 

乳牛から搾取されたままの生乳には感染性のある細菌(サルモネラ属菌、リステリア属菌、カンピロバクター属菌等)が含まれることがあり、通常はヒトが摂取する前の殺菌が必要です。日本では、非加熱で飲用に用いることができる牛乳は「特別牛乳」として乳省令で以下のように定義されています。

『搾乳した場所で直ちに容器詰めできること、施設の衛生基準や牛乳の成分・菌数をクリアしていることを保健所が認めると、種類別「特別牛乳」と表示できる。保健所の厳しい監視、指導が常時行われる』。

日本では、生乳を消費者に販売する前に、病原体を殺菌するために加熱するか、「特別牛乳」として提供するかのいずれかを行わなければならないこととなっています。

2018年8月に、非加熱の生乳が原因として推定されるカンピロバクター食中毒事件が北海道の3つの宿泊施設で発生しました。この生乳は、同一の農場由来であり、「特別牛乳」ではありませんでした。患者からはCampylobacter jejuniが分離され、また、原因とした疑われる生乳からもC. jejuniが分離されました。このカンピロバクター食中毒の原因を解明するため、分離されたC. jejuniについて詳細な性状解析が実施されました。

食中毒患者から分離されたC. jejuni 6株と生乳から分離されたC. jejuni 5株が試験に用いられました。MLST解析*の結果、11株のC. jejuniは全てST61に分類されました。11株のC. jejuniについて全ゲノム解析が行われ、ゲノムデータベースに登録されているST61株のゲノム情報とSNV解析**より比較した結果、今回の食中毒事件に関連する11株はすべて同じクラスターに属していました(図)。このことは、今回の食中毒の原因が同一起源の生乳であったことを強く示唆しました。

日本で、生乳を原因としたカンピロバクター食中毒が発生することは稀です。しかし今回、同一の起源であることが示唆される生乳からC. jejuniが分離されました。このことから、生乳へのC. jejuniの汚染は、搾乳プロセス中、もしくは少なくとも農場で混入していたことを示しており、宿泊施設や飲食店等での生乳の衛生管理だけでは、カンピロバクター食中毒を防ぐのに不十分であることを示唆しています。今回の発生を通じて、生乳を飲用する場合は加熱殺菌する重要性が改めて示されました。

 

*MLST解析; MLST(Multi-Locus Sequence Typing)解析。細菌の複数の遺伝子領域 (通常 7 領域以上) の配列をもとに、菌のタイピングを行う分子生物学的手法。ST型として分類分けされる。

**SNV解析; SNV(Single Nucleotide Variant)解析。全ゲノムデータなどをもとに、遺伝子またはゲノム内の単一塩基の変異をもとに細菌同士の近縁性などを比較する分析手法。

臼井 優(酪農学園大学)