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2024年02月29日

FDAの年次報告; 2022年の食用動物での抗菌薬販売量

 

FDA Releases Annual Summary Report on Antimicrobials Sold or Distributed in 2022 for Use in Food-Producing Animals

FDAのホームページより
2023.12.7.
https://www.fda.gov/animal-veterinary/cvm-updates/fda-releases-annual-summary-report-antimicrobials-sold-or-distributed-2022-use-food-producing

 

薬剤耐性菌対策を実施するに当たっては、基礎データとして抗菌薬の使用量を把握することが極めて重要で、各国ではデータの集計が行われています。2023年12月7日に、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、アメリカの食用動物に使用するために販売または流通した抗菌薬について、2022年の年次報告書を公表しました。以下に、要約を示します。


アメリカでの食用動物への抗菌薬の使用量は、2015年と比較して、重量ベースで36%減少しました。一方、2015年との比較では減少しているものの、2021年との比較では4%増加していました。アメリカでは、2017年に成長促進目的での食用動物への抗菌薬の使用が禁止されたため、全体での抗菌薬使用量は大きく減少しました。2020年から2023年のデータに関しては、COVID-19による動物の管理や獣医療サービスの内容に影響があった可能性があるものの、2017年以降は使用量がわずかに増加傾向にあり、これ以上、使用量が増加しないような取り組みが求められます。


抗菌薬の種類別に年次推移を確認すると、テトラサイクリン系抗菌薬の使用量が多いことがわかります(図1)。このことは、日本での食用動物への抗菌薬使用状況と同様です。テトラサイクリン系抗菌薬の使用量は、成長促進目的での抗菌薬の使用が禁止された2017年に大きく減少したものの、その後、わずかではあるが増加傾向にあります。予防目的としたテトラサイクリン系抗菌薬の使用が行われていることが推測され、使用量を減少させることができる余地があると思われます。2021年と比較して、ペニシリン系抗菌薬の使用量は1%減少しましたが、アミノグリコシド系抗菌薬の使用量は10%増加し、マクロライド系抗菌薬は8%増加し、リンコサミド系抗菌薬は11%増加しました。抗菌スペクトラムの比較的広い抗菌薬の使用量が増えていることが懸念され、これら抗菌薬については特に慎重使用の徹底が求められます。また、重量ベースのグラフには反映されませんが、食用動物に対しても、ヒトの医療で重要な抗菌薬とされるセファロスポリン系抗菌薬やフルオロキノロン系抗菌薬が使用されています。これら、特にヒトの医療で重要とされる抗菌薬の食用動物への使用に関しては、ヒト医療での抗菌薬の有効性を保つためにも、より慎重になることが求められます。


動物種別での抗菌薬の使用量については、豚への使用が全体の43%、牛への使用が全体の41%、七面鳥が全体の12%でした(図2)。一方、鶏への使用は全体の2%でした。日本に比べて、牛への使用量が多いのは、使用頭数の違いや牛農場の大型化の影響などが考えられます。また、鶏への使用量が少ないことに関しては、アメリカのブロイラー業者が、薬剤耐性菌問題に対して積極的に取り組んできたことが数値として現れていることも示唆されています。


続いて、2013-2022年の食用動物への目的別抗菌薬使用の年次推移を確認すると、2017年に成長促進目的の使用が禁止されてから、治療目的での抗菌薬の使用量が大きく増加していることが確認できます(図3)。このことは、「治療目的」での抗菌薬の使用が必ずしも、FDAの統計に反映されていないことを示唆しています。真に「治療目的」での使用が実施されるよう、さらなる教育、啓発活動が必要であることを示しています。


アメリカの食用動物においても、依然として不適切な抗菌薬の使用が行われていることが推察されます。動物での抗菌薬の使用は、動物の健康と福祉のために、より効果的に実施される必要があります。FDAは、引き続き慎重使用の徹底の実践を促進し、細菌感染症の治療、または必要な予防のみの使用に限定されるよう働きかけることを予定しています。海外の状況を把握しつつ、日本においても抗菌薬の慎重使用を推進することが求められています。

臼井 優(酪農学園大学)