お知らせ

2023年07月31日

“獣医学 Infection Step Up セミナー”が開催される!

 

 最近、畜産農場では高病原性鳥インフルエンザや豚熱が全国的に蔓延しており、畜産農家のみならず臨床現場にいる獣医師の重要性が増しています。また、家畜に治療用あるいは成長促進用に抗菌薬を使用することにより、主に腸管内で薬剤耐性菌は選択され、食肉を介してヒトへ伝播して健康に影響を及ぼすことが懸念されています。ところが臨床獣医師の感染症に関する知識は限定的であり、感染制御の最新情報が広く認知されていないように見受けられます。また、獣医学教育の中でも感染制御は、各科目で触れられているものの、集合体としての教育は実施されていません。医療でも感染症は過去の病気と考えられ、近年の医学教育の中でも重要視されていませんでした。ところが、2019年に中国で発生したことに端を発して瞬く間に世界を席巻した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の猛威を背景に、医学教育における感染制御に関する教育の見直しが叫ばれています。このような状況の下、医療分野や動物分野で生菌剤を販売するミヤリサン製薬(株)の社会貢献活動の一環として、これまで不十分であった獣医学分野での感染症に関する知識と技術を臨床獣医師に広めようと、One Healthの視点での“獣医学 Infection Step Up セミナー(Vet-ISU)“が企画されました。今回は第一回のVet-ISUの概要を紹介したいと思います。

 セミナーはさいたま市にあるミヤリサン製薬(株)中央研究所において開催されました。参加者は獣医系大学の若手教員6名と生物生産学部の1名を加えた7名でした。このセミナーでは、実習も含まれているため企画段階から少人数に限定したセミナーとし、今後、教育・研究において臨床現場での感染症対策に意欲的な若手の教員が集まりました。まず、17日の午後に中央研究所に集合し、高橋志達中央研究所長から開催趣旨を含めた開会のあいさつからスタートしました(図1)。その後、獣医学分野からの講演として、私から「家畜感染制御ネットワーク(JLIC)の取組み」と題して、これまでのJLICの活動を紹介いたしました(添付PDFファイルをご覧下さい)。まだ3回のセミナーを実施しただけであり、その認知度は必ずしも高いものではありませんが、十分のJLICの意義を感じて頂けたものと思います。次いで、岐阜大学の浅井鉄夫教授から、「野生動物や自然界における薬剤耐性菌の現状」と題して、先生のこれまでの研究成果をベースに、One Healthの重要な一角である環境にテーマを絞って話をしていただきました。これまで家畜や医療に比べてデータが不足している分野であるのですが、浅井教授の精力的な研究活動を展開している分野であり、自らのデータを基に講演していただき興味深いものでした。後半は医学分野からの講演で、講師としてCOVID-19に関連する報道番組で良くお顔を拝見する2名の感染症を専門とする著名な先生でした。まず聖マリアンナ医科大学の國島広之教授から「ヒト医療での薬剤耐性菌の現状」と題して、医療における薬剤耐性菌の話のみならず、先生が実施しているClostridioides difficile感染症についてもOne Healthの視点で講演されました。最後は愛知医科大学の三鴨廣繁教授から、「プロバイオテイクスについて」と題して講演をしていただきました。医学部入学後にいかにして感染症を専門にする医師になったかという自伝についてユーモアを交えてお話していただき、プロバイオテイクスの感染制御に対する有用性についても述べられました。参加者は医学系の先生から直接的にお話を聞く機会が少ないと思われ、興味深く拝聴されておられました。実習は感染制御に腸内細菌叢の役割の重要性が指摘されていることから、ミヤリサン製薬中央研究所の工藤逸美研究員を講師に参加者がそれぞれ持参した材料を基に次世代シークエンサーによる菌叢解析実習を行いました。

 以上のように、第一回Vet-ISUは初めての企画であることから運営についても心配されましたが、参加者や講師の皆様のご協力により成功裏に終了いたしました。One Healthによる医師と獣医師の連携強化が指摘されたのは、2016年に北九州で開催された世界医師会と世界獣医師会による国際会議で採択された福岡宣言によります。その後、学会レベルでは医師と獣医師の連携が図られていますが、臨床現場で活躍する獣医師にまではなかなか情報が到達していないのが現状です。獣医師の間で広く認知されるためには、学生時代の教育が極めて重要と考えられ、講義・実習で学生と接する機会の多い若い教員の方を対象としたこのようなセミナーは極めて重要と考えられます。参加者の皆様には、今回、得られた知識とともに人との繋がりを活用して、今後の教育・研究に役立てていただければ大変嬉しく思います。今回、このような企画をしていただいたミヤリサン製薬(株)の関係者の皆様には心からお礼申し上げたいと思います。現状では今回のような企画を実施する製薬企業はほとんどなく、本セミナーの開催意義の重要性から考えて、今後も継続した開催を期待したいと思います。

 

 


図1. セミナー風景