お知らせ

2023年07月14日

昆虫堆肥化の過程における薬剤耐性遺伝子の変化は昆虫の腸内細菌叢と関連する

 

Alteration of manure antibiotic resistance genes via soil fauna is associated with the intestinal microbiome

Du S., Zhang Y., Shen J. P., et al.
mSystems. 7. E0052922. 2022.
Doi: 10.1128/msystems.00529-22

 

家畜排泄物には、薬剤耐性遺伝子(ARG)やヒトに対する様々な病原性細菌が多く含まれています。シラホシハナムグリProtaetia brevitarsisのような可食性甲虫の幼虫を用いた家畜排泄物の処理は、排泄物をバイオ肥料に変換することで、廃棄物削減と堆肥としての価値を生み出す効果的な手法として、近年、注目されています。これまでの研究では、P. brevitaris幼虫による処理堆肥を用いて栽培された野菜に含まれるARGが、大幅に減少することが解明されており、P. brevitaris幼虫処理堆肥は薬剤耐性菌対策にもなる安全なバイオ肥料として有望であることが示されています。しかし、P. brevitaris幼虫の腸内通過中の家畜排泄物に含まれるARGの動態やP. brevitarsis幼虫の腸内細菌叢との相互作用については明らかになっていませんでした。そこで、P. brevitarsis幼虫に鶏の糞便を6日間与え、リアルタイムPCR*とメタゲノム解析**により、P. brevitarsis幼虫の腸管を通過する際の、細菌叢の変化やARGの存在量とその多様性を測定し、その関連性について解析を行いました(図1)。

その結果、ARGの多様性は、P. brevitarsis幼虫の中腸、後腸、処理産物において、鶏の糞便よりも有意に低く、病原性関連遺伝子の約80%が減少しました。また、ネットワーク解析の結果、構成細菌であるバクテロイデーテス(Bacteroidetes)とファーミキューテス(Firmicutes)がARGの減少に関連する主要な細菌門であることが示されました。さらにメタゲノム解析から、後腸ではARG、可動性遺伝子、病原性関連遺伝子が同時に減少していることが示され、P. brevitarsisによる処理に伴い細菌と病原菌の間でARGの水平遺伝子伝達が起こる可能性が減少していることが示唆されました(図2)。今回、ARGの減少がP. brevitarsisの腸内細菌叢の変動と強く関連していることを実証し、昆虫の幼虫による家畜排泄物処理によるARG拡散のリスク軽減メカニズムに関する知見を提供することができました。

わが国では堆肥の熟成に微生物を利用する方法が一般的に用いられています。我われは現在の堆肥作成法ではARGが残存し、少なからず環境にばら撒かれていることを報告しています。また、環境に生育する野菜からもARGが検出されることも報告しています。この堆肥から環境へのAGRの拡散を遮断するためにも、堆肥中のARGを減少させる技術の開発が求められていました。耐性菌対策として、P. brevitarsis幼虫を用いた堆肥の作成法が注目されそうです。

 


*リアルタイムPCR:遺伝子量を定量する手法。遺伝子量が相対的に多いかどうか、または絶対数としてのコピー数を算出することができます。

*メタゲノム解析:細菌叢を構成する細菌を網羅的に解析する手法。どのような細菌によって細菌叢が構成されているかを明らかにすることができます。

 

臼井 優(酪農学園大学)