お知らせ

2023年06月12日

ヒトの薬剤耐性Aspergillus fumigatus感染は環境から感染することを遺伝子解析により解明

 

Population genomics confirms acquisition of drug-resistant Aspergillus fumigatus infection by humans from the environment
Rhodes J, Abdolrasouli A, Dunne K, Sewell TR, Zhang Y, Ballard E, Brackin AP, van Rhijn N, Chown H, Tsitsopoulou A, Posso RB, Chotirmall SH, McElvaney NG, Murphy PG, Talento AF, Renwick J, Dyer PS, Szekely A, Bowyer P, Bromley MJ, Johnson EM, Lewis White P, Warris A, Barton RC, Schelenz S, Rogers TR, Armstrong-James D, Fisher MC.
Nat Microbiol. 7. 663-674. 2022.
Doi: 10.1038/s41564-022-01091-2.

 

カビ(真菌)であるAspergillus fumigatusは、堆肥、花壇、葉、植物、土、貯蔵食品、穀物、腐敗した野菜、家庭内のほこりなどで増殖します。A. fumigatusは、胞子を作り空気中に浮遊しているため、容易にヒトが吸い込んでしまいます。また、胞子は靴や衣服に付着して家庭内に侵入し、カーペットの上で増殖することもあります。A. fumigatus感染は、通常、アゾール系と呼ばれる抗真菌剤で治療されます。しかし近年、第一選択薬であるアゾール系抗真菌薬に対する耐性率が上昇しており治療が困難な症例も認められています。A. fumigatus感染は、その臨床的重要性にもかかわらず、環境中からどのように感染するかについて、ほとんど知られていませんでした。そこで、英国およびアイルランド全域から分離されたA. fumigatus 218株(143名の患者から分離された臨床由来株153株と65の環境由来株)の遺伝子解析を実施しました。

その結果、環境由来株と臨床由来株から、ほぼ同一の遺伝子型を持つアゾール耐性A. fumigatus株が得られたことから、環境からアゾール耐性株がヒトに感染していることが示されました(図)。また、遺伝情報を基にした耐性遺伝子検索により、アゾール耐性に関連する遺伝子やこれまで知られていなかった耐性機構が同定されました。

A. fumigatusは、正常な免疫を持つヒトであれば、あまり影響を受けることはないでしょうが、ガンなどの基礎疾患を持って免疫力が低下しているヒトを重症化させる可能性があります。そのため、感染症に罹患しやすい重症ウイルス性呼吸器感染症患者が増加していることを考慮すると、アゾール耐性A. fumigatusを含む薬剤耐性真菌に関する環境要因や遺伝的基盤の解明は急務です。

以下は、この論文を基にした記事(https://www.dabl.com/dabl-home/dabl-home/articles/drug-resistant-mold-your-garden-could-be-making-you-sick)の翻訳です。

「ガーデニングや庭仕事、工事現場など、A. fumigatusにさらされる可能性のある場合は、長ズボンや長袖を着用して身を守ることが必要です。また、土や肥料を扱う場合は、手袋を着用しましょう。ガーデニングや堆肥を扱う際には、胞子を吸い込まないようにN95フェイスマスクの着用を検討しましょう。そして、家の中に戻ったら、窓を開けて新鮮な空気を取り込みましょう。窓を開けておくと、アスペルギルスが家の中に蓄積されるのを防ぎ、他の病気の原因となる病原体も一掃することができます。」

以上のように、通常の生活では神経質にA. fumigatus 感染を心配する必要はないものの、感染を心配するようであれば、上記の注意事項を守りましょう。

 

臼井 優(酪農学園大学)