お知らせ

2023年05月29日

食用動物における抗菌薬の使用実態と今後の展望 : 2020年から2030年に向けて

 

Global trends in antimicrobial use in food- producing animals: 2020 to 2030
Mulchandani R, Wang Y, Gilbert M, Van Boeckel T P.
PLOS Glob Public Health. 3. e0001305. 2023.
Doi: 10.1371/journal.pgph.0001305.

 


 食用動物に対する抗菌薬の使用は、大規模な飼育を可能にし、動物性タンパク質に対する世界的な需要の増加に対応するのに役立っています。しかし、動物用抗菌薬の広範な使用は薬剤耐性菌の選択を促進し、動物の健康だけでなくヒトの健康に対しても重要な影響を及ぼす可能性があるため公衆衛生上の大きな問題となっています。そのため、食用動物の抗菌薬の使用に関する国際的なモニタリング(監視)が必要とされています。モニタリングの目的として、第一には、各国の食用動物での抗菌薬の使用量を減らすための取り組みを把握することです。第二には、薬剤耐性菌の増加を抑制するために、抗菌薬スチュワードシップ*に取り組むべき国を特定することでした。

 そこで、食用動物における抗菌薬の使用量に関するデータを42カ国から集めました。多変量回帰モデルとFood and Agriculture Organization(FAO)** による牛、羊、鶏、豚の動物数の予測を併用し、2020 年と 2030 年の世界の動物用抗菌薬の使用量を推定しました。各国における抗菌薬使用量(トン)の推定値は、World Organization for Animal Health (WOAH)*** が発表した大陸レベルの抗菌薬使用強度(動物1kgあたりミリグラム)、およびこの情報が公開されている国からの国レベルの抗菌薬使用量報告に合わせて調整されました。世界的に見ると、2020年の抗菌薬使用量は99,502トン(95% CI 68,535-198,052)と推定され、現在のトレンドに基づくと、2030年には8.0%増加して107,472トン(95% CI: 75,927-202,661 )になると予測されました。抗菌薬使用のホットスポットは、圧倒的にアジア(67%)であり、アフリカは1%未満でした。今回の結果は、2017年のデータを使用した過去の予測と比較して、2030年の世界の抗菌薬使用量が多い結果となりました。これは、アジア/オセアニア(~6,000トン)および南北アメリカ(~4,000トン)の抗菌薬使用量の上方修正に関連していると思われます。抗菌薬使用レベルに対する国の政策の影響をより適切に評価するためには、大陸レベルでの抗菌薬使用量の報告ではなく、国ごとの抗菌薬使用量の報告をすべきであることが示されました。

 なお、日本でも動物分野での薬剤耐性調査(JVARM)で食用動物に対する抗菌薬の販売量が調査され、2020年度で原末換算量として合計842.92トンでした。調査方法が異なるものの、今回の2020年の使用量の0.84%に相当しました。薬剤耐性菌を抑制するためには、できる限り抗菌薬の使用量を抑制する努力が求められます。


臼井 優(酪農学園大学)

*抗菌薬スチュワードシップ:抗菌薬を慎重かつ適切に使用するための活動のこと。世界的に医療分野で盛んに導入されており、動物分野での導入も検討されています。
**FAO:世界の農林水産業の発展と農村開発に取り組む国連の専門機関。
***WOAH: 旧名称はOIE。世界の動物衛生の向上を目的とする政府間機関。