お知らせ

2026年06月03日

灌漑での間接的な水の再利用を介した農業従事者の薬剤耐性菌曝露に関する定量的リスク評価

 

Quantitative risk assessment of antimicrobial resistance exposure among farmers through indirect water reuse for irrigation

 

Honda R, Lin M, Hara-Yamamura H, Yamamoto-Ikemoto R, Watanabe T.
J Water Health. 24, 81-92. 2026.
doi: 10.2166/wh.2025.303.

 

農業従事者は一般人に比べて灌漑水に接触する機会が多く、そのことによる健康被害を受ける可能性があります。そこで、本研究では薬剤耐性菌に汚染された灌漑用水の利用を介して、農業従事者が曝露する薬剤耐性菌に関連する年間疾病負荷を評価することを目的として実施されました。定量的微生物リスク評価(QMRA)*で従来用いられる感染確率は、治療の長期化や重症化といった薬剤耐性菌による疾病負荷を十分に捉えることができない欠点があります。そこで、この研究では、大腸菌による下痢症および黄色ブドウ球菌による膿痂疹に関して、薬剤耐性菌による追加的な疾病負荷を推定するために障害調整生命年(DALYs)**を用いました。

石川県の面積4.20 km²の淡水湖である河北潟流域を対象地点として、5地点(A, B, C, D, E)及び灌漑用取水口(POE)及び灌漑用蛇口(POU)からサンプリングが行われ、大腸菌、黄色ブドウ球菌の分離、薬剤感受性試験が実施されました(図1)。薬剤耐性菌に影響する可能性が高い要因(下水処理場、と畜場、豚農場など)とサンプリング地点の位置関係は図1に示す通りであり、A地点から、湖に向かって水が流れます。また、レンコン農家における年間感染確率および1人当たりのDALYsは、大腸菌の経口曝露による下痢症および黄色ブドウ球菌の経皮曝露による膿痂疹を対象として推定しました。収穫時に灌漑用水との接触頻度が高いことから、レンコン農家を対象としました。灌漑作業における曝露シナリオは、レンコン農家への聞き取り調査に基づいて構築されました。

灌漑に使用された水から分離された大腸菌の薬剤感受性試験の結果、アモキシシリン(AMX)、スルファメトキサゾール/トリメトプリム(ST)、テトラサイクリン(TC)に対する耐性率が高かいものでした(図2)。特にST及びTCについては、家畜関連施設の周辺のサンプルから分離された大腸菌(A, B, F)で、他の地点で分離された大腸菌よりも耐性率が高く、家畜関連施設に由来することが推察された。POE及びPOUのQMRAの結果、大腸菌および黄色ブドウ球菌のいずれについても感染確率は一般に許容されるリスク水準(10⁻⁴)を上回っていました(図3)。また、レボフロキサシン及びテトラサイクリン耐性菌は、分離された細菌のいずれも1/10以下でした。レンコン農家への聞き取り結果を統合したDALYsに基づく推定では、薬剤耐性菌の増加により、最大でDALYが100%増加となる可能性が示されました(図4)。

これらの結果は、DALYsが、直接または間接的に再利用された排水を含む灌漑用水に関連する薬剤耐性菌の健康影響を定量化する上で有効であることを示すとともに、薬剤耐性菌のリスク低減に向けた対策を支援するものとなりました。

 

*定量的微生物リスク評価(QMRA):微生物による健康リスクを、曝露量・感染確率・発症確率といった要素を用いて数理的に評価する手法。水や食品などを介した病原体への曝露から、ヒトがどの程度の確率で感染・発症するかを定量的に推定します。

**障害調整生命年(DALYs):疾病による健康損失を「早期死亡による損失」と「障害を伴う生存期間」の両方を統合して評価する指標です。1 DALYは「健康な1年の損失」を意味し、疾患の重症度や持続期間も考慮されます。そのため、単なる感染確率だけでなく、薬剤耐性による重症化や治療の長期化といった影響も含めて疾病負荷を評価できます。

 

臼井 優(酪農学園大学)