お知らせ

2026年01月04日

1990〜2021年における薬剤耐性による疾病負荷:2050年までの予測を含む体系的解析

 

Global burden of bacterial antimicrobial resistance1990–2021: a systematic analysis with forecasts to 2050

 

GBD 2021 Antimicrobial Resistance Collaborators *
Lancet. 404, 1199-1226. 2024.
doi: 10.1016/S0140-6730(24)01867-1

 

薬剤耐性(AMR)は、21世紀の重要な国際的な公衆衛生上の課題です。過去の研究では、2019年におけるAMRの世界的および地域的な影響が定量化されたことがあります。しかし、これまでに過去の動向と将来予測を含む、地域を横断したAMRの影響について推計を行った研究は存在しません。そこで、1990〜2021年における204の国と地域について、22病原体、84の病原菌–薬剤の組み合わせ、11種類の感染症について、全年齢および年齢層別のAMRに起因する死亡者数を推定しました。多因子死亡データ、退院データ、微生物データ、文献、単剤耐性プロファイル、医薬品販売データ、抗菌薬使用調査、死亡サーベイランス、外来・入院保険請求データ、既報データなど、5億2000万件の個別記録・分離株および19,513件の研究・地域・年データを収集し解析しました。

統計モデルにより、データが存在しない地域も含めて、すべての地域におけるAMRの影響を推定しました。推定には、次の5つの要素を活用しました。

  1. 敗血症が関与する死亡数
  2. 感染症死亡のうち特定の感染症に起因する割合
  3. 感染症死亡のうち特定病原体に起因する割合
  4. 特定の病原細菌の抗菌薬に対する耐性率
  5. AMRに関連した死亡リスクの超過分または感染期間の延長

本研究では、AMRがどの程度の健康被害をもたらしているかを明確にするため、実際には起こり得ない「もしも」の状況を設定し、それと現実を比較することでAMRの疾病負荷を推定しました。この「もしも」の状況を、本研究では 仮想的な比較条件(counterfactual condition) として扱っています。具体的には、2つの仮想条件に基づき、それぞれ「起因負荷(attributable burden)」と「関連負荷(associated burden)」と定義しました。

起因負荷:耐性菌感染がすべて感性菌による感染に置き換わった場合

関連負荷:耐性菌感染がすべて「感染なし」に置き換わった場合

さらに、2050年までのAMRによる疾病負荷の世界および地域別予測を以下の3つのシナリオで作成しました:

  • スタンダードシナリオ:最も起こりやすい未来の確率的予測
  • グラム陰性菌に対する新規抗菌薬シナリオ:グラム陰性菌を標的とする新薬の開発の成功を仮定
  • ベターケアシナリオ:重症感染のケアの改善と抗菌薬へのアクセスの向上を仮定

最終的な推計値は、世界レベルに加えて、複数の国を共通の社会経済的・地理的特徴に基づいてまとめた広域的な地域区分(super-region)、さらにその下位に位置づけられる地域(region)の3つの階層で集約して示しました。

その結果、2021年には、AMRに関連する死亡は471万(95%不確実性区間:423万〜519万)人でした。そのうちAMRに起因する死亡は114万(100万〜128万)人と推定されました。1990年から2021年にかけてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に起因する死亡者数が5.72万人から13.0万人、関連する死亡者数が26.1万人から55.0万人に増加したと推定されました(図1)。グラム陰性菌では、カルバペネム耐性菌に起因する死亡者数が12.7万人から21.6万人、関連する死亡者数が61.9万人から103万人に増加したと推定されました(図1)。

スタンダードシナリオでは、2050年には、AMRに起因する死亡者数が191万、AMRに関連する死亡者数が822万になると推定されました(図2)。AMRに起因する死亡者数の増加は 70歳以上で最大でした(2050年の全起因死亡の65.9%)(図2)。このシナリオによれば、追加的な対策がなければ、「2030年までにAMR死亡を10%削減する」という目標を達成できないことが示唆されます。

介入効果の予測を行ったところ、グラム陰性菌に対する新規抗菌薬シナリオでは、1110万人のAMRによる死亡を回避可能であり、ベターケアシナリオでは、9200万人の死亡を回避可能でした(図3)。このように代替シナリオの予測では、今後四半世紀の間に多くのAMRによる死亡を回避できる可能性が示されています。AMR対策のための新たな予防策は、世界の保健政策立案者にとって引き続き最優先事項でなければなりません。今回の研究は、将来のAMR動向を予測し、実施された対策の進捗を追跡するための追加研究の基盤となります。

* GBD 2021 Antimicrobial Resistance Collaborators: Global Burden of Disease(GBD)研究の中で、AMRに関する負荷を推計するために組織された国際研究者チームの名称

臼井 優(酪農学園大学)