お知らせ

2025年08月26日

韓国での豚肉生産チェーン(農場からマーケット)から分離された多剤耐性Clostridium perfringensの性状解析

 

Molecular characterization of emerging multi-drug resistant Clostridium perfringens isolated from pork production chains in Korea

Kim Y, Cho H, Jang B, Lee M, Park KT.
Food Microbiol. 128, 104729. 2025.
doi: 10.1016/j.fm.2025.104729.

 

Clostridium perfringensは、ヒトや動物の腸内常在菌であり、食中毒のほかにガス壊疽や化膿性感染症、敗血症などの原因となります。この内、最も多発するのがウエルシュ菌食中毒で、事件数は少ないものの患者数が多いことが特徴となります。そこで、豚肉生産チェーンにおけるC. perfringensのモニタリングは、病原体のヒトへの伝播リスクを管理する上で重要となります。今回の研究では、韓国の豚肉生産チェーンにおけるC. perfringensの保有率、薬剤耐性プロファイル、およびゲノム特性を明らかにすることを目的としました。

生産チェーン全体でのC. perfringensの陽性率は23.6%(330/1397)でした(表1)。豚農場では48.8%(178/365)、と畜場では16.6%(138/832)、小売市場では7.0%(14/200)の陽性率でした。毒素型は、98.9%が食中毒に多いA型であり、1.1%がC型を示しました。C型菌の29.1%がβ2毒素遺伝子を保有していました。薬剤感受性試験では、20株が多剤耐性を示し、テトラサイクリンに対する耐性率が最も高く(65.1%)認められ、クリンダマイシンとペニシリンが続きました(表2)。多剤耐性株の全ゲノム解析では、17種の薬剤耐性遺伝子および12種の病原遺伝子が検出されました(図1)。しかし、エンテロトキシン遺伝子は陰性でした。さらに、系統解析により3つのクラスターが同定され、そのうち2つは中国で報告されたヒト臨床分離株と近縁関係を示しました(図2, cluster1とcluster2)。マーケットで分離されたST408株「IJCP45」は、プラスミド上にoptrA遺伝子を保有しており、中国の家畜由来C. perfringensにおいて報告されているoptrA保有プラスミドと同一でした(図3)。optrA遺伝子は、リネゾリドに加えてフェニコール系抗菌薬に対する薬剤耐性遺伝子の一つです。このことは、特定のプラスミドの伝播を介したoptrA遺伝子の拡散が、東アジア諸国で生じている可能性を示しています。

以上の結果は、韓国における豚由来C. perfringensの分布および遺伝的特性に関する基礎データを提供し、人獣共通感染の可能性を示しています。日本においても、C. perfringensおよびoptrA遺伝子の侵入、拡散が懸念されます。日本においてもウエルシュ菌食中毒やC. perfringens感染症を防ぐために、豚肉生産チェーンにおける薬剤耐性C. perfringensの監視が望まれます。

 

臼井 優(酪農学園大学)