お知らせ

2025年08月12日

ウシとヒトが保有するコリスチン耐性遺伝子mcr-1陽性大腸菌に遺伝学的な関連性はなかった

 

No genetic link between E. coli isolates carrying
mcr-1 in bovines and humans in France


Haenni M, Châtre P, Beyrouthy R, Drapeau A, François P, Madec JY, Bonnet R.
J Glob Antimicrob Resist. 41, 111–116. 2025.
doi: 10.1016/j.jgar.2024.12.021.

 

コリスチンは、医療で最も重要視される抗菌薬(カルバペネム)を分解するカルバペネマーゼ産生のグラム陰性菌による重篤なヒト感染症の治療に使用される最後の手段となる抗菌薬です。一方、獣医療分野ではコリスチンが広く飼料添加物(日本では2018年に使用禁止)や治療薬として使用されてきており、コリスチン耐性遺伝子であるmcr-1陽性大腸菌が家畜において国際的に広がり、コリスチン耐性遺伝子のリザーバーとしてヒトへ伝播することが懸念されています。フランスでは、ウシ由来大腸菌でmcr-1が頻繁に検出されています。そこで今回、フランスのヒト由来mcr-1陽性大腸菌がウシ由来大腸菌と遺伝学的な関連性があるかどうかについて解析を行いました。

2011年から2019年の間に分離されたヒト由来(n = 24)およびウシ由来(n = 127)コリスチン耐性大腸菌を解析対象としました。コリスチン耐性遺伝子mcr-1の検出はPCRで行い、その後、全ゲノム解析に基づいたMLST解析等を実施しました。

その結果、mcr-1は多様な遺伝的背景を持つ大腸菌によって保持されていましたが、中でも ST167およびST10に分類される遺伝子型(ST型)の大腸菌に広く分布していました(表)。ウシとヒト由来株の中には、同一のST型も認められましたが、全ゲノムの詳細な解析を行ったところ遺伝学的に同一な大腸菌株は認められませんでした。ウシ由来大腸菌では、mcr-1遺伝子はIncHI2やIncX4プラスミド、さらには染色体上でも検出されました。一方、ヒト由来大腸菌ではIncI2やp0111プラスミド上でも検出されました。調査開始当初は、ウシ由来mcr-1陽性大腸菌のほとんどがIncHI2プラスミド上にmcr-1を保有していましたが、2014年には、IncX4上に保有する株の割合が増え、2018年には、染色体上に保有する株の割合が増えてきています(図)。

ウシ由来大腸菌とヒト由来大腸菌のmcr-1陽性大腸菌に共通するST型やプラスミド型(IncHI2、IncX4)は認められたものの、ウシからヒトへの伝播を示唆するデータは得られませんでした。mcr-1が染色体上に検出される割合が増加していることは、ウシにおいて、mcr-1陽性大腸菌が特異的な進化をしている可能性があり、今後の動向に注視が必要となります。

 

臼井 優(酪農学園大学)