お知らせ

2025年07月07日

ビフィズス菌は乳児のワクチン応答を最適化するのに役立つ

Bifidobacteria support optimal infant vaccine responses

 

Ryan FJ, Clarke M, Lynn MA, et al.,
Nature. 641, 456-464. 2025.
doi: 10.1038/s41586-025-08796-4

 

抗菌薬の投与がワクチン効果の低下を引き起こす可能性があるという報告が増えていますが、そのメカニズムは十分には解明されていません。本研究では、出生から生後15か月までの191人の健康な正期産・経腟分娩の乳児を前向きに追跡し、抗菌薬の投与がワクチンによる免疫応用に与える影響を評価しました。

抗菌薬の投与を受けた乳児について以下の3つのグループに分けて評価を行いました(図1)。Neo-ABXは新生児期に抗菌薬を乳児に直接投与された群で、IP-ABXは分娩時、母親に抗菌薬を投与された群、PN-ABXは出生後、母親に抗菌薬を投与された群としました。さらに、抗菌薬を投与されていない群(No-ABX)を比較対象としました。

その結果、Neo-ABX群の乳児では、生後7か月齢の時点で、13価肺炎球菌ワクチン(PCV13)に含まれる幾つかの多糖類、ならびに6種混合ワクチンに含まれるインフルエンザ菌b型やジフテリア毒素抗原に対する抗体価が、No-ABX群の乳児に比べて、有意に低いことが明らかになりました(図2)。さらに、生後1週及び生後6週間の乳児糞便についてメタゲノム解析した結果、Neo-ABX群の乳児の糞便に含まれるビフィズス菌の量がNo-ABX群の乳児と比較して減少していました (図3; No-ABX群と比較しての増減が図示される。図の左側に減少した菌種がプロットされており、B. breveB. infantis等のビフィズス属菌が、Neo-ABX群で減少している)。また、生後6週齢の微生物叢と7ヶ月齢の時点でのワクチンに対する抗体価との相関関係を解析したところ、ビフィズス菌の減少はワクチンに対する抗体価の低下と相関していました(図4; 細菌叢の変化と抗体価の相関関係について、ヒートマップで図示している。例えば、B. breveB. bifidum等の減少と破傷風トキソイドやFHAに対する抗体価の減少が相関したことを示している)。

マウスモデルにおいても、PCV13に対する免疫応答は正常な腸内細菌叢の存在に強く依存しており、無菌マウスにビフィズス菌または新生児集中治療室で広く使用されているプロバイオティクスを投与することで、ワクチンに対する免疫応答を回復させることができました(図5)。

本研究は、早期の抗菌薬使用によるワクチン応答への悪影響を緩和するために、腸内細菌叢を標的とした介入が有効である可能性を示しています。畜産分野においても、ウェルカムショットに代表されるように哺乳期に抗菌薬を投与する習慣があります。今回の研究が示すように、哺乳期の畜産動物に対する抗菌薬投与はワクチン効果を減弱させてしまう可能性があり、不要な抗菌薬の投与は避けるべきであることが示唆されます。一方で、効果的なワクチン効果を得るためには、正常な腸内細菌叢が重要であることが示されています。飼料やプロバイオティクスの活用により腸内細菌叢を改善しておくことが、感染症の予防にも効果的であることが示唆されます。

 

臼井 優(酪農学園大学)